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四十年生きても、まだ世の中は知らない事ばかり。酸味のきいたキリマンジャロの珈琲で気を取り直し、ヴァレリーは手渡された資料に改めて目を通した。
熱中すると、ヘーゼルの瞳が鋭く知的な輝きを帯びてくるのが魅力的だ。そう視聴者から賞賛されたが、市長も例外でなかったらしい。自信ありげな彼の流し目を見なかったことにして、ヴァレリーはスーツ姿の長身を椅子の上で伸ばした。
冊子にはこのシティのストリートアートが写真で紹介されている。汚かった地下道を彩る赤や緑の抽象画、鉄製のゴミ箱には派手に踊る若者たち、そしてビルの壁面のいたるところに、スプレーとペンキで描かれた極彩色の世界が広がっていた。
「市長のお考えでは、ストリートアートを前面に押し出して、観光の収入源にしたいと。しかしながら、公共や私的な所有物に無断で絵を描けば、器物損壊に当たります。市民の中にも、景観を損ねると嫌がる人も多いでしょう。その点はどうお考えでしょうか?」
「もちろん市民の反感を買う恐れもありますな。表現の場として、建物の持ち主の依頼や許可を得やすいよう、いずれ行政の方でバックアップすることも考えています」
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