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市長は繋がりそうなほど立派な眉を興奮気味に動かして、練りに練った構想を滔々と語って聞かせる。二杯目の珈琲を運んできた職員が、同情の眼でヴァレリーを見つめて立ち去った。
ひとまず返事は保留にしよう。ロンドンからから車で二時間近くかけて来たのだから、このストリートアートを何カ所かは生で見てみたい。帰る前に、夫と子供たちに市場で土産を買って帰りたかった。
「市長たってのお願いでこうして伺いましたが、芸術の分野に詳しい方と相談して、改めてお話をさせて頂きたく思います」
「パレットさん。目立ちたがりが描いている落書きにも、後世にはバンクシーのような価値が出るかもしれない。高名な画家の絵ならオークションで競り落とすのに札束を積まなくてはならんが、彼らは有難いことにボランティアだ。このシティが芸術の都として注目を集めれば、観光客でにぎわい、市民にも恩恵が還元される」
成程。美術館を作るには莫大な費用は掛かるが、街を丸ごとアート会場にすることでその点をクリアしようという考えらしい。芸術性への評価でなく、商業的な成功を目論んで、アーティストたちに受け入れられるか疑問は残るが。
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