止まり木

9/21
前へ
/21ページ
次へ
   ◇    ◇    ◇  カイルが描いたスケッチブックは、大事にとってある。確か、ロンドンの自宅に保管しているはずだ。  日が傾く頃、ヴァレリーは車で帰宅した。モダンな一軒家には、早くも明かりが灯っている。リビングを覗くと、二人の子供が跳ねまわっている。夫婦の長所を受け継いで元気に育ってくれたのはいいが、その姿は翼のない天使でなければ、小さな恐竜だ。 「アツシ、いつもありがとう」  子供を保育園へ迎えに行ったのは、夫のアツシ・タミヤだ。ヴァレリーが礼を言うと、黒い瞳を瞬かせ軽く笑った。 「どうだった、現地へ行った感想は」 「あなたの言う通り、市長の話よりキリマンジャロの方が美味しかった」 「ストリートアートならロンドンも有名だから、観光化の案は悪くないけれどな」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加