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◇ ◇ ◇
カイルが描いたスケッチブックは、大事にとってある。確か、ロンドンの自宅に保管しているはずだ。
日が傾く頃、ヴァレリーは車で帰宅した。モダンな一軒家には、早くも明かりが灯っている。リビングを覗くと、二人の子供が跳ねまわっている。夫婦の長所を受け継いで元気に育ってくれたのはいいが、その姿は翼のない天使でなければ、小さな恐竜だ。
「アツシ、いつもありがとう」
子供を保育園へ迎えに行ったのは、夫のアツシ・タミヤだ。ヴァレリーが礼を言うと、黒い瞳を瞬かせ軽く笑った。
「どうだった、現地へ行った感想は」
「あなたの言う通り、市長の話よりキリマンジャロの方が美味しかった」
「ストリートアートならロンドンも有名だから、観光化の案は悪くないけれどな」
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