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毛虫
ホノカが結論を先延ばしにして、その期間を今までどおりに過ごしたいと言うのなら、別にそれでもいいけれど、だったら僕の気持ちはどうなってしまうのだろう。それはそれで、煮えきらない。
僕が虚空を見つめながら葛藤していると、ホノカはジトッとした目でそんな僕を見つめてきた。丸い瞳が半分程度になっても、十分に愛らしい猫のような瞳が、なにか言いたげに震えている。
僕は目線を逸らすと、反対側の植え込みの木の枝に目を遣った。
すると――そこには、小指ほどの大きさの黒い毛虫の姿。まさに目と鼻の距離の葉の上で、ウネウネと動いているではないか。
「うわッ!!!???」
思わず身を反らした。それくらい近かった。
ホノカは吹き出した。
「どした」
「いや、毛虫!!!」
ホノカは身を乗り出してその毛虫の姿を確認しにきた。なんという物好きなやつ。そういう変なところも好きなのだが。
すると、ホノカは何かを閃いたかのように手をぽんと打った。
「いいこと思いついた」
「……絶対いいことじゃなさそうだけど、何?」
ホノカはニコッと笑うと、葉の上の毛虫を指差した。
「この子を育てて成虫にしてよ」
「はあ?」
「蝶になったら恋人になろう。蛾だったら、このままでいよう」
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