1人が本棚に入れています
本棚に追加
癒しの植物?
はぁ……今日も疲れた……。
ため息をひとつ。
重い足取りで駅に向かう。
秋も深くなったこの時期、すでに辺りは暗い。
しかし最近では、この時間に帰れてラッキーなくらいだ。
まだ、店の明かりがついている。
私は、草木好子26歳。
社会人数年目で、最近ようやく仕事を任されるようになってきた。
しかし、仕事が充実しているのはいいのだけれど、
忙しすぎて目の回るような毎日を送っている。
最近の癒しといえば、コンビニスイーツでおうちカフェ、
休日は家でゴロゴロするくらい。
そもそも外に出る気力もねぇーーーー。
今日もコンビニでスイーツ買って帰りますか……。
いつものように、そう思いながら駅に向かっていた、
その時だった。
「そこのお嬢さん」
見知らぬ女性に、声をかけられた。
顔を上げると、綺麗な着物を着て、とても物腰やわらかなご婦人だった。
しかし、こんな街中で私に一体何の用だろうか?
もしかしてセールス? 怪しい団体?
危険だと思ったらすぐ逃げよう。
「今、お店のキャンペーン中でね、種を配ってるんですよ」
……種? ああ、花の種ね。
よく見れば、ご婦人は綺麗な花の籠を持っている。
花屋のご婦人は、花の種の入った袋を差し出してきた。
花……かぁ。ガーデニングは嫌いじゃないけど……。
「あなた、とても疲れている顔をしているわ。
植物はね、飾っておくとリラックス効果もあるのよ」
「でも、うまく育てられるかどうか……。
最近忙しいので、枯らしてしまわないかと……」
実際、過去にいくつか植物を枯らしてしまったことがあり、
正直言って、かなり自信がない。
「大丈夫よぉ〜。この子はね、とっても強い子なの!
1日1回、霧吹きで少量水をあげるだけで大丈夫!
ぜひ、あなたのような人に育ててもらいたいわ」
ご婦人は、笑顔でグイグイと勧めてきた。
うわぁ〜、随分と熱心だなぁ……。
でもまあ、キャンペーン中で無料だって言うなら、
もらうだけもらっておいてもいいかな……?
私は、花の種を受け取った。
何の種類の花かは書かれておらず、袋は真っ白だった。
「あの……。これ、何の花の種ですか?」
「うふふふ、それは、育ててみてのお楽しみよ♪」
花屋のご婦人は、にこにこと微笑むだけだった。
私は、軽く会釈をしてその場を去った。
曲がり角に差し掛かった時、振り返ったが、
ご婦人の姿はすでになかった。
そして私は、電車に乗って家に帰ってきた。
何か忘れているような気がする……。
…………あ!
コンビニスイーツ!!
とほほ、もう外に行く気力がない……。
明日は休日だし、鉢植えとコンビニスイーツは明日にしよう。
私は、遅めの夕食をとって寝ることにした。
最初のコメントを投稿しよう!