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生物部の猫宮さん
生物部にもこの春、新入部員が入ってきた。
「改めまして。俺が部長の大神、三年生。で、こちらが二年生で副部長の猫宮さん。あと幽霊部員がふたりいるんだけど、あいつらはほとんど部活に来ないから、来たときに紹介するよ」
今日の活動は、そんな言葉からはじまった。
生物部は部員数が少ない。そんな中で入ってくれた一年生の女子生徒を、俺も猫宮さんも喜んで迎え入れた。
猫宮さんは俺のとなりで、じっとしている。白い肌に黒い髪、すこしつり目をした彼女は、黒猫っぽい雰囲気。彼女はいつも真顔だ。だけど、今日はいつにもまして表情が硬い気がした。新入部員の鳥井さんに人見知りをしているんだと思う。
「じゃあ、鳥井さん。育てている動物の紹介もしていくから――」
「大神部長、わたしは餌をあげてもいいでしょうか。みんな、待ちきれないという顔です」
それまでずっと黙っていた猫宮さんの声に、俺は飼育ケースを見た。生物室には、いくつかのケースや水槽が置かれている。そんな中で、ハムスターのつぶらなひとみと目が合った。
……たしかに、待ちきれなさそうだ。
「わかった。じゃあ猫宮さんは餌やりをお願い」
うなずいて餌を保管している棚に向かっていく猫宮さんを見送り、俺は新入部員に対するオリエンテーションをはじめ――、
「あっ」
背後でザザザザザ、と小さなものが大量に落ちる音がした。それから、猫宮さんの素っとん狂な声も。
「……すみません、お気になさらず」
ハムスターの餌であるミックスフードを盛大に床にばらまいた猫宮さんが、申し訳なさそうに俺たちに頭を下げた。
俺はすぐに、ほうきとちりとりを持ってくる。猫宮さんはもう一度恐縮した顔で頭をさげて、俺の手からそれらを受け取った。
お互い、慣れたものだ。なにせ、猫宮さんのやらかしは、日常茶飯事なのだから。
「あの、猫宮先輩って、もしかして……」
鳥井さんのもとにもどると、彼女は声をひそめて問いかけてきた。緊張からかずっとかちこちに固まっていた彼女は、いまのハプニングでほどよく肩から力が抜けたらしい。
俺は笑って、小声で返した。
「うん。彼女は、超ド級の不器用だよ」
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