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すると、鳥井さんは急に勢いを失って、しゅんと小さくなった。
「そっか、死んじゃったのは、悲しいですよね。お供えものをしたいって気持ち、わかります。うちも、飼っていたインコが死んだとき、同じことをしましたもん。天国で食べてくれればいいな、って」
動物想いのやさしい子みたいだ。これは生物部も安泰だな、と思いながら、俺は笑う。
「実際、あのケースに入れた餌はいつのまにかなくなってるから、天国で食べてくれてるのかもしれないな」
「……え?」
「実はあのケース、ハムスターの幽霊がいるってうわさがあるんだ」
「……えええっ!」
また顔を青くする鳥井さん。うん、やっぱりこの子、いい子だ。
「ごめん、冗談だよ」
「大神部長」
つんとした、猫宮さんの声がした。いつのまにか、彼女は俺たちのすぐ背後に立っていた。心なしか、声が冷たい。鳥井さんが、あっ、と眉を八の字にした。
「すみません、猫宮先輩。うるさかったでしょうか……?」
「え? あ、いえ、そういうわけでは。お気になさらず」
もごもごと謝罪し、猫宮さんは俺の腕をくいっと引いた。
「ハムハムが、すこしやせているようなんです」
「ハムハムが?」
首をかしげつつ体重を確認してみる。器に入れたハムハムをはかりに乗せて、そこから器の重さを引いて……。飼育記録のノートでいままでの体重を確認してみると、たしかに軽くなっていた。
猫宮さんは不器用だけど、動物をよく見ている。優秀な部員だ。
「ちょっと餌、増やそうか」
俺は飼育記録ノートに、メモを記入していく。
生物部育成記録 2024/4/10
ハムハム:体重減。餌を増やして、様子見で対応。
記録者:大神
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