育てる理由

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 もう、ホストは辞め時だろうか。育人がそう考えている最中、入ったヘルプの席で一人のお客様と二人きりになった。担当をしていたNo.1ホストが別の席に呼ばれ離席したのである。 そのお客様は紫煙を燻らせながら、育人に尋ねた。 「あなた、名前は?」 「はい、育人と申します」 「地味な名前ねぇ」 人の名前を地味と侮辱するとはお里が知れる。 だが、これで怒っていては接客業失格。顔を引きつらせるのは心の中だけに留め、軽く躱す。 「はい、よく言われます」 お客様は育人の全身を頭の天辺から足の爪先までを舐めるように眺めた。 本人の素材(かお)はいいのに、身に付けているものが全て二線級。 背広もアクセサリーも数万円程度の安物。そのことから、育人に対してとある印象を覚えてしまう。 「あなた、ガラテアみたいね」 「がら…… てあ……?」 「あら? ガラテアを知らない? 今日日の子は教養がないのね?」 「はい、すいません。学がないものでして、お教えいただければ幸いです」 「なら、ピグマリオンは知っているかしら?」 「何か、聞いたことはありますが…… どのようなものかはわかりません」 「知らないことは知らないと素直に言う。素直なところ好きよ?」 「は、はぁ…… ありがとうございます」 「仕方ないわね。ピグマリオンについて説明してあげるわ。しっかりと聞きなさい?」
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