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翌日、育人は眞理子によって銀座に呼び出された。眞理子は待ち合わせ場所に育人が現れた瞬間にダメ出しを行う。
「本当にダメダメねぇ、貴方。何を考えて私服で出勤してきているの?」
「いえ…… 初めての同伴出勤だから、デートみたいなもんだと思って……」
「まぁいいわ。昨日と同じ背広で来ないだけマシってものね。幸い、この辺りはブランドショップがいっぱいあるわ。背広を買ってあげる」
眞理子は育人を引き連れて適当に目についたブランドショップへと入る。
その瞬間、店員がもみ手もみ手の猫背で媚び諂うかのように駆けてきた。
「これはこれは疋田様、本日は御来店ありがとうございます」
「この子に服を見繕って上げて。そうねぇ、ホストの背広を数着でいいわ」
「はい、畏まりました」
それから育人は背広を何着も着せ替えられた。何度着せ替えられても、馬子にも衣装と言った感じで似合うとは感じない。
眞理子はその原因が育人自身にあると気がついた。
「貴方、顔に知性がないのよね。背広も着こなせてない。田舎臭い顔したマネキンで着せ替えごっこをやっているみたい」
「す、すいま……」
育人が謝ろうとした瞬間、眞理子は修羅の形相で育人を睨みつけた。育人はもう謝るなと言われているにも関わらずに謝ろうとしたことに気が付き、慌てて口を噤んでしまう。
眞理子は追撃をやめない。
「後、髪型も田舎臭いわねぇ? どこで切っているの? 頻度は?」
「美容院で月に一度、髪染は自分で。先輩に元美容師がいるんで、気がついた時には切ってくれます」
「こんなことしていたら、頭の中身は10円って言われるわよ? 毎日、一流の美容師に髪をいじってもらいなさい? あたしの知り合いの店を紹介して上げるから」
眞理子は名刺入れをポケットから取り出し、その中から高級ヘアサロンの美容師の名刺を育人に差し出した。
「これを出せば、当面はツケで貴方の髪をいじってくれるわ。早めに毎日自分で出せるようになりなさいね?」
「え、毎日ですか……」
「あたしは貴方を一流の男に育てたいの。いいから毎日出勤前に髪型だけでも一流にしてらっしゃい? めんどくさがっちゃダメ。いいわね? 返事は?」
「え、あ、はい」
「休みの日はいつも何をしているの?」
「えっと…… カネがないんで家でボーっと……」
これは前途多難だ。眞理子は溜息を吐いてしまう。
「お金上げるから、社交ダンスでも習いなさい。後はゴルフでもいいわ。後はあたし以外のお客さんと積極的に遊びなさい。ようは、教養を身に着けなさいってことよ」
「教養…… ですか?」
「お部屋の中でスマホポチポチして、検索してその場その場で得た知識は単なる雑学で教養ではないわ。体系的に体感して広い目線で得た知識こそが教養よ。その教養を卓で話せる人じゃないと一流のホストじゃないわ。まぁ、適当に相槌を打って褒めているだけの二流三流のホスト止まりでいいなら止めないけど……」
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