育てる理由

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 眞理子は怒り混じりの心情吐露を行う。その目より熱い悔恨の涙が頬を伝う。 育人は素早くハンカチを差し出し、涙を拭うことを促す。 眞理子は恭しい顔で育人のことを見つめながら、涙を拭う。 「ありがとうね」 「いえ……」 「あたしは結婚しなかったから自分の子は育てていない。それに劣等感(コンプレックス)を覚えていたの。そんな中、貴方に会った」 「成程、だから僕を育ててくれたのですか」 「今更、育児って歳でもないし…… たまたま(テーブル)に就いたドンケツホストのあなたをNo.1に育てようと思ったのよ。そして、あなたは私の思い通りにNo.1ホストになってくれた」 「これは本当に感謝しかありません」  眞理子であるが、育人を一流のホストに育てていくうちにすっかり惚れ込んでいた。 自分で育てた一流の男に心奪われてしまったのである。 これまで眞理子は育人に愛も金も注ぎ込み育てている。息子にして恋人のように愛しているのだ。 育人もそんな眞理子に感謝し好きでいてくれている。母にして恋人(おんな)のように思ってくれているに違いない。  問題(ネック)があるとすれば、年齢差だが…… 愛に年齢はない。育人はこの問題(ネック)でさえも、これまでの感謝の前には霞むものと信じてならない。  自分が書いた作品では年齢差なぞ関係ない奇跡をいくつも起こしている。 その奇跡が現実に起こるものと疑うことはない。 眞理子はその思いの丈を告白することにした。
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