14人が本棚に入れています
本棚に追加
不器用な殺戮王子
ドガ────ンッ!! ガラガラガラ────。
復興作業中に壁が崩れ、王子は生死をさまよう大けがを!
なんてこと!!
私は母国にポーションを取りに飛ぶ。
「お願い。どうか間に合って────」
最速で戻ったのに、もう真夜中。
さあ。どうやってポーションを飲ませる?
寝てる人の口に流し込むのは危険。
しかもポーションは臭く苦い。
「うぅ。っううッ!」
王子は苦しみ悶える。
私は口移しで少しずつ飲ませることに。
透明化すれば、ポーションの臭さと苦さは消えるはず。
恥ずかしがってる場合じゃない!
ゴクッ。
王子が飲んだ後、目を見開いて上半身を起こす。
よし。今ならいっぱい飲める!
私はもう一度、口移し。
ゴクゴクゴク。
そして、王子は両腕で私を捕らえた。
────殺されるかしら。
ゾクッと背筋が凍る。
「ジェリィが助けてくれたんだね。ありがとう」
王子は私に頬ずりする。
へ?
私だとばれてる!?
つまり、私の魔法を知ってる!?
私は透明化を解いた。解かないと話せないから。
「なぜ私の魔法を知ってるのです?」
「俺の魔法は温度探知だ」
私と最も相性の悪い魔法────。
透明になったところで、心臓は動き、血は流れる。
体温は隠せません。
「私をお嫌いでないのなら、なぜ放置したんです?」
「俺が嫌いだろ?」
「好きとか嫌いになるほど、殿下を存じ上げません」
「俺は殺戮王子だ。ジェリィも怖いと言った」
「だから、愛すことはないと言ったのですか!?」
「安心すると思ったんだ。実際、安心しただろ?」
王子は逃がさないように、私を抱きしめたまま話します。
恥ずかしくて、鼓動が早くなり、体温が上がってしまう。
「殿下が怖いのではなく、初夜が怖いだけです」
私を見ないで。
つい、透明化してしまう。
でも……あれ?
なんで私とソシエの会話を知ってるのかしら?
透明化を解く。
「なぜ、怖いと言ったとご存じなのです?」
「俺のもう一つの魔法は聴覚強化。この二つの能力で勝利した。安心して。嫌がることはしない」
「なぜ塔に閉じ込めたのです?」
「留守中に何かされたら怖い。宮殿にいる間だって守り切れなかったんだ。でも見張ってる間に、かわいくて、優しくて、凛々しいから。愛してしまったんだ」
屈強な王子が、怯えながら、ゆっくり愛を告白────。
なんて不器用な人。
でも、こんなに褒められたら、どうしたって透明になっちゃう。
ん。でも。あれ?
私が見てると気づいてたのよね?
また透明化を解く。
「私がいるとわかって、肖像画を眺め、愛をつぶやいたのですか?」
「そばにいて欲しくて。だけど怯えてるのに強制したくなくて」
「……」
意外とあざといのかしら。
「かわいいなあ。消えたり、恥ずかしそうに現れたりを繰り返すの」
「見ないでください」
「無理。かわいくて。少しは俺が気になった?」
「ええ。まあ。少しは」
本当は、少しではありません。
汗をかき、先頭きって働く王子は素敵で尊敬しました。
兵からの信頼も厚く、民にも愛されてました。
この優秀な王子を死なせたくないと、強く願ったのです。
「ずっとそばにいてくれる? そうすれば守れるから」
「はい」
「キスはもう怖くない?」
頷くと、王子は私に優しくキスを。
恥ずかしくて、つい王子まで透明にしてしまいました。
最初のコメントを投稿しよう!