14人が本棚に入れています
本棚に追加
恨みの矛先
「ハハハ。この婚姻同盟によって両国とも平和になりますな!」
王子と私の結婚披露宴は壮大。
すっかり母国の宰相も、安心したようでした。
十年も続いた戦争の終わりを喜び、王都もお祭りのよう。
久しぶりに笑顔で賑わう町を見て、私も嬉しくなりました。
「姫様。どうか。どうかお幸せに」
「心配しないで。今までありがとう」
乳母も宰相も、帰国していきました。
さみしいですが、結婚とはそういうもの。
ところが宮殿内の、私への態度が豹変します────
「あんたのせいで夫は死んだッ!!」
召し使いは泣きながら、私に水をかけました。
「きゃっ」
廊下を歩けば、後ろから蹴られ、見下ろされる。
「はあ。姫様。またスープに毒が────」
「しかたないわ。恨む気持ちもわかるもの」
母国から連れきた唯一の侍女ソシエはため息。
「姫様。ドレスが汚されていますっ!!」
「これは困ったわね」
「無視では飽き足らず、嫌がらせを許して。なんて酷い結婚相手!」
「あら。放置される方がいいわ。怖いもの」
「殺戮王子ですもんね。ですがこのままでは───」
王子が怖いわけではありません。
覚悟して嫁いでも、やっぱり初夜は怖いのです。
そして、ソシエは守りたい。
「そうね。危険ね。ソシエだけでも帰国して」
「姫様を置いて!?」
「和平の証の私は殺されない。でもソシエは何をされるか」
「ですが!」
「私なら大丈夫。知ってるでしょ?」
「───では、城下町で待機します」
侍女ソシエを宮殿から逃がすと、食事も出なくなりました。
部屋に王子がいらっしゃいました。
「殿下。お久しぶりにございます」
「ああ。そうか。結婚式以来だな」
「本日はどういったご用件で?」
警戒してしまう────。
「そなたを愛することはない」
「問題ありません」
「塔に移ってくれ」
「かしこまりました」
私は塔に閉じ込められました。
扉は内側から開きません。
ですが、窓があります!!
私は魔法が使えます。飛行、透明化の二つ。
ちなみにソシエの魔法は、無毒化。
毒入りスープも、おいしいスープに。
私は早速、ソシエのいる城下町に飛びました。
「姫様ぁ! ご無事で!」
「ええ。かわいいお家ね」
「いつでも姫様がいらっしゃれるよう、食事も用意しています」
「ありがとう。嬉しい。頂くわ」
温かいスープから、ソシエの思いやりが心に染みる。
こそ泥のように厨房で飲んだスープより、ずっと美味しい。
「宮殿でお化けがでると、町で噂になってます。なにか失敗しました?」
「この前、廊下で人にぶつかっちゃった」
私の透明化は、視覚、嗅覚、聴覚から消えるだけ。
触れるし、殺せます。
「姫様の状況を、本当に母国に伝えないでよいのでしょうか?」
「絶対に教えてはいけない。また戦争になるわ」
「ですが、王子はいまだに姫様を放置してるのでしょう?」
「一度いらしたわ。『そなたを愛することはない』と伝えに」
「まあ! なんて、ひどい!」
「別に。私も愛してないし。そろそろ帰らなきゃ」
なんだか気になって、王子の部屋に寄ってみました。
透明化しても、扉を開けば見つかってしまいます。
ですから、廊下から覗きました。
服と同じで、私が触れれば壁も透明にできます。
すると王子は、結婚前に贈った私の肖像画を眺めている。
なぜかしら?
翌朝、王子を上から尾行してみました。
戦争で焼け野原になった町の、復興に尽力する王子。
母国も同じ状況なのでお互い様。
ですが罪悪感が膨れ上がり、とてもとても胸が痛む────。
「あれ。風か?」
日暮れに、王子のテントの布の扉を開き、潜り込みました。
「ジェリィ。愛してる。一目でいい、会いたい────」
王子は私の名を呼び、愛をつぶやいた。
愛することはないとおっしゃったのに!?
でしたらなぜ放置して、塔に閉じ込めたの??
最初のコメントを投稿しよう!