不器用な殺戮王子

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不器用な殺戮王子

 ドガ────ンッ!! ガラガラガラ────。  復興作業中に壁が崩れ、王子は生死をさまよう大けがを!  なんてこと!!  私は母国にポーションを取りに飛ぶ。 「お願い。どうか間に合って────」  最速で戻ったのに、もう真夜中。  さあ。どうやってポーションを飲ませる?  寝てる人の口に流し込むのは危険。  しかもポーションは臭く苦い。 「うぅ。っううッ!」  王子は苦しみ悶える。  私は口移しで少しずつ飲ませることに。  透明化すれば、ポーションの臭さと苦さは消えるはず。  恥ずかしがってる場合じゃない!  ゴクッ。  王子が飲んだ後、目を見開いて上半身を起こす。  よし。今ならいっぱい飲める!  私はもう一度、口移し。  ゴクゴクゴク。  そして、王子は両腕で私を捕らえた。  ────殺されるかしら。  ゾクッと背筋が凍る。 「ジェリィが助けてくれたんだね。ありがとう」  王子は私に頬ずりする。  へ?  私だとばれてる!?  つまり、私の魔法を知ってる!?  私は透明化を解いた。解かないと話せないから。 「なぜ私の魔法を知ってるのです?」 「俺の魔法は温度探知だ」  私と最も相性の悪い魔法────。  透明になったところで、心臓は動き、血は流れる。  体温は隠せません。 「私をお嫌いでないのなら、なぜ放置したんです?」 「俺が嫌いだろ?」 「好きとか嫌いになるほど、殿下を存じ上げません」 「俺は殺戮王子だ。ジェリィも怖いと言った」 「だから、愛すことはないと言ったのですか!?」 「安心すると思ったんだ。実際、安心しただろ?」  王子は逃がさないように、私を抱きしめたまま話します。  恥ずかしくて、鼓動が早くなり、体温が上がってしまう。 「殿下が怖いのではなく、初夜が怖いだけです」  私を見ないで。  つい、透明化してしまう。  でも……あれ?  なんで私とソシエの会話を知ってるのかしら?  透明化を解く。 「なぜ、怖いと言ったとご存じなのです?」 「俺のもう一つの魔法は聴覚強化。この二つの能力で勝利した。安心して。嫌がることはしない」 「なぜ塔に閉じ込めたのです?」 「留守中に何かされたら怖い。宮殿にいる間だって守り切れなかったんだ。でも見張ってる間に、かわいくて、優しくて、凛々しいから。愛してしまったんだ」  屈強な王子が、怯えながら、ゆっくり愛を告白────。  なんて不器用な人。  でも、こんなに褒められたら、どうしたって透明になっちゃう。    ん。でも。あれ?  私が見てると気づいてたのよね?  また透明化を解く。 「私がいるとわかって、肖像画を眺め、愛をつぶやいたのですか?」 「そばにいて欲しくて。だけど怯えてるのに強制したくなくて」 「……」  意外とあざといのかしら。 「かわいいなあ。消えたり、恥ずかしそうに現れたりを繰り返すの」 「見ないでください」 「無理。かわいくて。少しは俺が気になった?」 「ええ。まあ。少しは」  本当は、少しではありません。  汗をかき、先頭きって働く王子は素敵で尊敬しました。  兵からの信頼も厚く、民にも愛されてました。  この優秀な王子を死なせたくないと、強く願ったのです。 「ずっとそばにいてくれる? そうすれば守れるから」 「はい」 「キスはもう怖くない?」  頷くと、王子は私に優しくキスを。  恥ずかしくて、つい王子まで透明にしてしまいました。
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