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第一話 好きになった人は既婚者でした
仕事ができる男性というものは、なぜか輝いてみえる。
秋田美奈はスーツフェチだ。
スーツが似合う男性は何割増しかでかっこよくみえる。
加えて身長が高ければ尚良し。
職場の上司、瀧田聖也(たきたまさや)はまさにそれに合致する人物だった。
並ぶと少し見上げる横顔。
推定身長は175cmくらい。
とりわけ顔がいいわけではない(失礼極まりないが)
普通に目があって鼻があって口があって…くらいの認識だ。
いつもスーツ姿でバシッと決め
とにかく仕事はできる。
報告や相談したことはすぐに反映されるし、処理も早い。
語彙力に長けており、営業実績も前年度超えで伸ばしていき、上層部からの評価も高い。
部下にも優しく接し、細やかな気配りや配慮も忘れない。
そんな上司に、部下が憧れを抱くのはよくあることで。
憧れや、尊敬の気持ちで終わればまだ良い。
社員食堂でたまたま時間が重なりランチを一緒に食べたり、
休憩室でおやつを食べたり飲み物のみながら話したり、
そんな業務外にたわいもない時間を過ごすうちに
美奈の心には、いつしか恋心が芽生えていた。
しかしそんな淡い気持ちはすぐに砕けた。
さりげなくリサーチしてわかったことは、瀧田には妻子がいるということ。
大学時代の同級生の妻との間に子供ができてすぐ入籍したので、19歳の息子と18歳の娘という大きなこどもが2人いること。
「夫婦仲はいいんだよ。もう20年以上一緒にいるけど、ほとんどケンカなんてないからね」
ノロケともとれるセリフを聞くと、チクッと、胸が痛んだ。
それで気付いたのだ。
自分の気持ちを。
あぁ…ただの憧れとか敬愛の気持ちだけじゃなく
私はこの人のことが好きなんだ。
瀧田聖也という人を。
上司としてではなく
ひとりの男性として。
気付いてからのほうが地獄。
この恋には苦しみしかない。
既婚者に恋しても
振り向いてもらえる可能性は少ない。
たとえ振り向いてもらえたとしても
大抵それは遊ばれているだけ。
「どうしたらいいんだろう…」
思い詰め、ため息が漏れる。
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