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【青年たちと母】
「翔君はエリート街道まっしぐらだったじゃん?どうかしたの?」
「あの子さ、大学で演劇サークルに入ってたんだけど、なんだかそっちの方に夢中になっちゃって、仲間と劇団を作ったとか言って、小劇場で芝居をやってるのよ」
「えーっ!お芝居!」
「公演の前なんかだと帰ってこない日もあるし、ロクに話もできやしない。主人も私ももうお手上げよ!」
「そりゃ……心配だね」
「本当ならもうそろそろ就活を始めなきゃいけない頃じゃん?」
「だよね……」
「芝居なんかじゃ食べていけないからね」
「うん、多分無理だよね」
「そのことを言ってもね、分かってるよ、うるさいなって言うんだよね」
「就職のことは、本人も考えてるんじゃない?」
「劇団仲間の人達も、芝居で食べていけるとは思っちゃいないだろうけど……大丈夫なのかなぁ…」
「大丈夫だよ!翔君はしっかりしてるもの!就活はこれからでも十分間に合うよ!」
「子供のために良かれと思って、一生懸命育ててきたけれど…子供の方は自分で勝手に育っていっちゃうんだね」
「なかなか親の思い通りにはなってくれないね…」
「私、ずっと胃が痛くてさ、病院に行ったら、少し気持ちを整理した方がいいですよって、カウンセリングを進められたの」
「翔君ママがカウンセリングを勧められたの?」
「そう。それでわかったことがね…」
「うん、何がわかったの?」
「私は息子に依存してるのよ」
「え?母親が子供に依存してるの?」
「私は息子を私が思う立派な姿に育てることに自分のアイデンティティを見出していたってことね」
「あ、すごくわかるかも…」
「私は私自身が何をしたいか、私がどう生きたいかを見つめて自分の人生を生きていかなくちゃいけないんだ」
「わ、その言葉もろに私にも刺さる!」
2人は少し冷めた ティーカップを手のひらで温めるように 眺めていた。
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