90人が本棚に入れています
本棚に追加
第2節 地獄の体育祭
あれから千秋ちゃんからの連絡はなく、いつも通り過ごしている。
が、こんなに平和でいいんだろうかと思うくらい何もなく、少しだけ不安が募る。まるで嵐の前の静けさのように。
結局千秋ちゃんと会ったことは誰にも言っておらず、手筈通りお見合いという名の探り合いが行われる予定だ。
ジローさん、最近ずっとご立腹で興奮ゴリラ状態だからなぁ……。千秋ちゃんが、本当は結婚する気はないって話をしてもキレそう。もはや何してもキレそう。
でも、今は誰にも何も言わない方がいいんだろう、と直感では思ってる。
成瀬組でも、これが仕組まれたことだって知る人は何人いるんだろうか。組長さんは知ってるとして、側近?幹部?でも誰が裏切り者かも分からないのであれば、知ってる人数は極端に少ないはず。
まさか千秋ちゃんの独断……ってことはないと思うし。
「おい東堂」
「……」
「とーどー」
「……」
「妖怪眉間皺ブス女」
「殺す」
「聞こえてるじゃねぇか」
悪口の癖。ネーミングセンスの癖。小田よ。
「なに」
「何をそんなに考えてんのか分かんないけどさ、姐さん。シークレットが解禁されたって」
「姐さん言うな」
まだなってないしこれからもなるつもりはないんだよこちとら。
……ん?シークレット……?
「それってもしかして」
「そう、体育祭の」
「何になったの」
「チーム対抗ハンカチとりだってさ」
「ハンカチとり……?」
なんだそのいかにも室内競技みたいな名前は。
「で、その後ろにちっちゃく『〜命まではとられるな〜』って書かれてた」
「いきなり物騒」
「だろ」
そう、お分かりだとは思うが、実は体育祭がはじまるのだ。しかも明日。来週にはお見合いが迫っているのに……イベント満載すぎてもうすでに心は折れかかっていたりする。
うちの高校の体育祭は少し特殊らしく、毎年一番最後の競技だけは直前に知らされるらしい。しかも、名前だけでは趣旨は分からず、当日説明されてようやく内容が分かるらしいのだ。まるでロシアンルーレット。ヤンキーばっかりいるからか、体育祭の運営までも性格が悪い。
「どんな競技なんだろうな」
「チーム対抗って言われてるぐらいだから総当りの乱闘じゃない?」
「おま、バカ東堂。怖いこと言うなよ。当たるだろ」
その場合小田は一目散に逃げるだろうな。
「あーあ。体育祭なんてやってる暇ないっての」
「姐やん暇じゃん」
「姐やん言うな」
「暇じゃん」
「暇だけど暇って言うな」
ああそうですよ。暇ですよ。考えることは多いけど考えたってどうせ分かんないし、当事者だけど当事者じゃないし、ええそうですよ考えるだけ無駄ですよ暇ですよ。
「めっちゃ心の中で文句言ってるってことだけは分かる。顔で」
どんな顔だよ。
最初のコメントを投稿しよう!