第1節 ケーキを奢るロリコン

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千秋ちゃんのでっかい背中を見送りつつ、帰路につく。 きっと、何も話すつもりはなかったのだろう。 ……最初は。 「……」 小田のパーカーを着たまま帰り道を一人歩く。 なんであんなことを私に話したのか。 チンピラ2人から助けようとしたから?気配を消してたから?自分に圧倒されなかったから?すぐに成瀬組の若頭だと気づいたから? 理由はすべてだろう。 本来なら一般人である私に、大まかと言えどもあんなに深くまで組の事情を話したりはしないはずだ。 認められたのかどうかは知らないが、奴は遠回しにわたしを巻き込もうとしている。使えるものは使う、次郎さんと同じ考え方だ。 使えないと判断されるよりかはマシだが、それにしても組関係のいざこざに巻き込まれるのはごめんなんだけどな。 まぁ、あちらの事情も分からなくはないが。 「はぁー……」 無意識に深いため息が出る。 次郎さんにはまだ言うなってことだろうな。 種明かしは見合いの時か。 次郎さんに隠しごと、苦手なんだけど。 やっぱり職業柄…いや、私の職業は学生のはずなんだけど、お家柄、危険といつも隣り合わせなもんで。 今回は久々にめちゃくちゃ面倒事になりそうな予感。 ジローさんに言われた通り、ちゃんと体づくりしておいて良かった。おかげで腹筋なんてバキバキ、「柔らかさ」の「や」の字もない。朝ベッドに忍び込んでくる陽ちゃんに「かてぇ……」と言わせた程だ。あいつ殺す。 ♪♪♪ 陽ちゃんへ殺意がわいてきたところで、携帯の着信音が鳴る。 あ、そういえば小田を先に帰らせたんだった。 「無事」 [そこの心配はしてなかった] 「しろよ」 [逆に相手の心配はしてた] 「するなよ」 [私の体操服なんだけどさ] 「全然私の心配の電話じゃなくて笑う」 [こないだのバスケで暑くなって上脱いだじゃん] 「うん」 [そのまま体育館の隅に置き去りにしたんじゃないか説が浮上したんだよね] 「あー、確かに」 [だろ] 「うん」 [……] 「……」 [……] 「……えっ」 [えっ] 「それで」 [え、それだけだけど] ……こいつ暇か??? 「怖い怖い。なんの電話よ」 [え、大事だろ。私の体操服の行方だぞ?] 「きも。どうでもいいわ」 [あ、ファンに盗まれた説もあるか] 「いるかよ。あ、1人いるわ」 [だとしたらまじで戦慄] だろうな。 [ま、そういうことだから、明日探しに行くぞ] 「1人で行けよ」 [じゃあなー] 「無視すな」 切りやがったな。 こと切れた携帯画面を睨むと、あの脳内サーカス野郎から小賢しい顔のカエルのスタンプが送られてきていた。うざ。なんだこの可愛くないカエルは。まじでうざ。 と、言いつつ。 なんだかんだちょっとは心配して連絡寄越してきたのかなぁ、なんて思うあたり、私は優しい心の持ち主だと思う。 いやでも小田だからな。 まじで体操服のことで連絡してきたとしてもおかしくはない。 難しいことを考えるのがアホらしくなってきた。 面倒なことになったら、その時はその時だ。
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