巣立ち

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 5月に産んだ卵たちは、蛇かオオタカにでも食べられてしまったのようです。  最初に(かえ)ったこの坊やの他に、4個あったはずの卵たちは、エサの捕食のために巣を空けるたび、ひとつ、またひとつと減っていきました。 「坊や、怖かったでしょう? 無事で良かった、坊やが食べられなくて本当に良かった」  卵は食べられてしまっても生き残った坊やが無事なのを見て、ホオジロ母さんは涙をこぼし、羽を広げて坊やを抱きしめました。  ホオジロ母さんは、たった一人生き残った坊やを大きくするために、せっせと毎日エサを獲り運びます。  それがホオジロ母さんの生きがいで、他の子どもたちの分まで、坊やを大きく大切に育てようと頑張りました。  やがて大食らいな坊やは母さんの願い通り、本当に立派に成長しました。  ホオジロ母さんよりも、大きく育った坊やですが、10日経っても飛びません。  20日経っても、まだ飛びません。  この子は飛べない子なんじゃないかしら、とホオジロ母さんが心配をしました。  大きく育ちすぎて、体が重たくて飛べないんじゃないかしらと、悩みだしたある日のこと。  体に見合ってない窮屈(きゅうくつ)な巣から、もがいて出た坊やは、ようやくパタパタと羽をはためかせ、近くの木に飛んだのです。 「まあ、坊や! 飛べるようになったのね」  もうこれで今回の子育てはおしまいなはずです。  坊やはきっと遠くに行くのだ、と感慨深げにその姿を見つめました。
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