巣立ち

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 羽を膨らまし、興奮をしているような坊やの姿に母さんの胸はざわつき、不安に打ち震えました。 「何も聞こえやしないわ? もう少しだけお眠りなさい、坊や」  ホオジロ母さんは、聞こえないと嘘を付きました。 「聞こえる、聞こえるよ。ボクのことを呼んでいるよ?」  森の奥深くから響くその鳴き声は、坊やの鳴き声にそっくりでした。 「行ってはダメよ、坊や。遠くに行ったら戻って来られなくなるわ」  坊やが声に聴き入る様子に、ホオジロ母さんが不安になっていることに、坊やは気づきません。 「でも母さん。ボク、あの声のひとに会いたいんだよ」 「坊や、行っちゃダメよ」 「ううん、母さん! ボクは、行くよ!」  止める間もなくバサバサと大きな羽を広げて飛び上がった坊やは、2度3度ホオジロ母さんを見下ろすように旋回をして。 ――カッコウ、カッコウ  と鳴きながら森の奥へと飛んでいきました。 ――カッコウ、カッコウ  森の奥の声もそれに応えるようにして。  二人の鳴き声は嬉しそうに響き渡り、やがて遠くに消えて行きました。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加