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04話「新しい感情の芽生え」
陸の日常が、少しだけ変わってしまった。
楓が告白した日の夜から、いつも通りに過ごしているはずなのに、どこか違和感が残る。
大学の講義中、ノートを開きながら教授の声に耳を傾けているつもりだった。だが、ふとした瞬間に昨日の楓の顔が浮かぶ。
『――兄貴が好きなんだ』
あの真っ直ぐな言葉と瞳が、何度も頭の中に蘇る。ペンを握っていた手が止まり、ノートの白い余白をぼんやりと見つめた。
――……何やってんだよ、俺。
頭を振り、ペンを走らせるが内容はまったく頭に入ってこない。楓の言葉が、心の奥に静かに残り続けていた。
その日の夕方。大学から帰宅した陸は、鍵を回そうとした瞬間、後ろから声をかけられた。
「兄貴!」
振り返ると、制服姿の楓が立っていた。
「……お前、またか」
「また、じゃないって。今日はちゃんと話があって来たんだ」
楓は真剣な目で陸を見つめた。陸は少し戸惑いながらも、玄関のドアを開ける。
「分かったから、上がれよ」
「お邪魔します!」
部屋に入ると、楓はためらうことなくソファに腰を下ろし、陸を見上げる。陸は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、テーブルに置いた。
「それで、話って何だよ」
「昨日の続き」
楓は間髪入れずに答えた。その言葉に、陸は僅かに目をそらす。
「……もう、十分伝わったから」
「伝わったからって、終わりじゃない。俺の気持ちは変わらないし、兄貴にちゃんと向き合ってほしい」
楓の真剣な言葉に、陸は押し黙った。
「俺、兄貴の答えがどうであっても、諦めないから」
言葉を重ねる楓を見て、陸は少し笑った。
「……楓って、本当に一途だな」
「当たり前だろ」
楓は自信たっぷりに胸を張る。その姿が眩しくて、陸はまた視線を外した。
楓が帰った後、陸は一人、ソファに腰を下ろしていた。部屋の静けさが耳に染みる。
「……アイツ、マジで本気なんだな」
楓の言葉と表情が、何度も脳裏に浮かぶ。真っ直ぐな目。冗談のかけらもない声。
――俺が楓のことを特別だと思うのは、昔からだった。
振り返れば、楓はいつも陸の後ろを追いかけてきた。無邪気な笑顔で、兄貴!と駆け寄ってくるあの姿が、どこか愛おしかったことを思い出す。
――でも、それって……。
弟分として見ていたはずの存在が、今は違う感情を引き起こしている。それを認めるのが怖かった。
「……逃げられない、か」
深いため息をつき、陸は目を閉じた。
翌朝、陸はいつもより早く目を覚ました。頭の中はまだ混乱していたが、一つだけ分かったことがある。
――俺がどう思ってるのか、ちゃんと考えて答えなきゃいけない。
楓の真剣な気持ちに、向き合う覚悟を決めなければならない。陸はそう心に決めると、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
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