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05話「ふたりの答え」
夕方の公園は、穏やかな空気に包まれていた。いつものベンチで、陸は待ち合わせ時間の少し前に腰を下ろし、静かに息をついた。
「俺も、答えを出さなきゃな」
独り言のように呟いたその声は、少し震えていた。
刹那、楓が遠くから駆けてくるのが見えた。制服姿のまま、軽く息を切らしながら陸の前で足を止める。
「兄貴、待たせた?」
「いや、俺が早く来ただけだよ」
そう答えながらも、陸の胸の中には微かな緊張が走っていた。
楓がベンチに腰を下ろすと、二人の間に少しの沈黙が流れる。公園を吹き抜ける風が、微かに葉を揺らしていた。
「……話があるんだ」
陸が口を開くと、楓はじっと彼を見つめた。その視線に、陸は小さく息を飲む。
「お前の気持ちは、ちゃんと伝わってる。あんなに真剣に言われたら、流せるわけがないだろ」
「……じゃあ!」
楓が期待するように身を乗り出すが、陸は一度目を伏せた。
「俺は、楓のことをずっと弟分だと思ってた。……楽だったんだよ。お前をそう見ていれば、深く考えずに済んだからな」
楓は黙って聞いている。陸は続けた。
「でも……最近気づいた。お前が特別だってことに。楓――お前のことを弟分以上に見てる自分がいるって」
楓の目が大きく見開かれる。彼の唇が微かに震えたのが見えた。
「だから……改めて言わせてくれ。俺も、お前が好きだ」
静かな声だったが、その言葉には揺るぎない決意があった。
楓はしばらくの間、陸の顔を見つめていた。目元がじわりと赤くなり、そして静かに涙が零れる。
「兄貴……やっと、ちゃんと向き合ってくれたんだな」
その声には、喜びと安堵が入り混じっていた。
「お前が本気でぶつかってきたからだよ。楓には、逃げられないからな」
陸が少し苦笑すると、楓は泣き笑いのような表情で頷いた。
「これからは、兄貴じゃなくて陸って呼んでもいい?」
「好きにしろよ」
陸がそう答えると、楓は小さく呼称を呟き、また照れくさそうに笑った。
☆ ☆ ☆
それから数日後、二人はいつもの商店街を歩いていた。行き交う人々の中、肩を並べて歩く彼らは、以前よりも自然な空気を纏っている。
「なあ、陸。これからも俺に頼っていいからな!」
楓が得意げにそう言うと、陸は吹き出した。
「何言ってんだ。頼りになる男になってから言えよ」
「えぇ、それひどくない? でも俺、兄貴を守れる男になるって決めたんだから!」
楓がふざけたように抗議すると、陸は肩をすくめて笑った。
「ふっ……まあ、期待してるよ」
軽くそう言った陸の横顔を、楓はじっと見つめる。
「俺、もっと成長するからさ。だから、ずっと俺のそばにいてくれよな」
その言葉に、陸は少し驚きながらも微笑んだ。
「はいはい、当たり前だろ」
二人の声と笑顔が、商店街のざわめきに溶け込んでいく。
それは、ふたりだけの新しい一歩だった。
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