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01.肌寒い道をとぼとぼと
進路。それは文字どおり進む道のこと。でも、彩乃がいくら自分の進む道の先を想像しても、そこには深い霧がかかったみたいにしか思えない。
それでも彩乃は霧に覆われた肌寒い道をとぼとぼと、時間に背中を押されながら前に進んでいくだけしかできない。自分がどこに向かっているかもわからないのに。
リビングのテーブルには進路調査票。彩乃はそれを前にさっきからため息ばかり。自分の進路をぜんぜん考えていないわけじゃない。けれど、自分が将来何をしたいかなんてことを考えると、たちまち目の前が霧に覆われる。そんな気分に陥っていた。
そのとき、彩乃のそばから息苦しそうな呼吸が響く。ひどい風邪を引いたときの呼吸のような。彩乃のそばには年老いた小型犬がバスタオルにくるまっている。
「もなか、大丈夫? 苦しいの?」
彩乃はもなかの体をやさしく撫でていく。苦しそうに呼吸するもなかの体はぶるぶると小刻みに震える。具合が悪そうだ。
「ねえ、お母さん。やっぱりもなかが苦しそう」
キッチンにいる母親はもなかのところにやってくる。
「やっぱり明日、動物病院に連れて行くしかなさそうね。お父さんも今朝、明日は有給が取れたら連れて行こうって言ってたから」
「よかったね。明日、病院に連れて行ってくれるかもって」
母親の言葉に安心した彩乃は、それでももなかの震える体を撫でてあげることしかできないのがもどかしい。
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