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03.その白紙を埋めようと
「じゃあ、行ってきます。もなかをお願い」
翌朝、彩乃は両親にそう告げて家を出た。父親は有給を取り、母親も仕事を早退して、もなかを病院に連れて行ってくれると言った。
後ろ髪を引かれるように中学校に向かう彩乃。けっきょく進路指導のプリントは白紙のままだ。その白紙を埋めようと、ひと晩じゅうずっと考えた。けど、どれだけ考えても自分が進む先が見えないまま、不安と焦りが募るばかり。
「おはよう」
朝の教室に入ると、いつもの朝の光景。
「ねえ、進路指導のプリント書いた?」
彩乃は近くの席の石垣柚月にたずねてみる。
「うん。だいたい行きたい高校も決まってきたし」
柚月は第一志望として県立高校の進学校の名前と、第二志望として私立高校の進学コースの名前を挙げた。
「法律関係の大学に行きたいなって。叔母さんがその関係だし」
「ふうん。ちゃんと考えてるんだね……」
どちらかといえばおとなしくて目立たない感じの柚月が、そこまでしっかり考えていると思っていなかったので、彩乃は少し動揺する。けど、その動揺を押し隠すしかない。
「おはよう。何の話?」
そこに登校してきたばかりの武藤佐保がやってきた。
「おはよう。進路指導のプリントに何を書いたかって話」
そう彩乃が告げる。
すると佐保はある私立高校の名前を挙げた。
「私は合唱を続けたいから、その高校の合唱部に入って全国大会に行く。そして推薦でどこかの大学に入るつもり」
「さすが佐保。しっかり考えてるね」
柚月が感心したように言った。佐保は得意げにうなずく。
「で、彩乃は?」
佐保にたずねられ、彩乃はどう返事しようか考える。
「わたし? まだ考え中」
そうとしか言いようがなかった。みんなちゃんと自分の将来をしっかり考えていることだけはわかった。いつもは進学校や将来の話なんてほとんどしないのに。彩乃は自分だけが置いてけぼりにされたような、そんな気分が胸に広がるばかり。
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