2人が本棚に入れています
本棚に追加
04.呼吸と一緒に
「ただいま」
家に帰ると、両親がリビングで深刻で重苦しい顔をしていた。
「もなか、どうだった?」
彩乃は両親の表情を見て、これからあまり聞きたくない話を聞かされるのだろうと覚悟を決める。
「あまり良くなかったよ」
父親は困ったような顔で切り出す。
テーブルの上には薬の入っている紙袋がいくつか積み上がっている。もなかはテーブルのそばで苦しそうな呼吸をしていた。
「もなか、ただいま」
通学用のバッグを下ろし、彩乃はもなかのそばにやってくる。
「お腹の中を検査してもらったんだけど、どうも悪い腫瘍がいくつもできているらしいって。詳しい検査はちょっとした手術みたいにお腹を開いて組織を取り出さないといけないらしいけど、そこまでするのももなかにはつらいだろうからって……」
そこまで父親が言うと、母親があとを継ぐように話しはじめた。
「それで痛み止めと息を楽にする薬をもらってきたの。もなかももう寿命ね。だいぶおじいちゃんだから」
「じゃあ、手術はできないの?」
彩乃の言葉に両親がほとんど同時にうなずいた。
「かわいそうだけど、こればかりはね」
彩乃の心臓がギュッと縮こまり、呼吸さえも一瞬止まったようにも感じた。現実を受け止められないように。もなかの体に置いた手からはもなかの温かな体温が伝わってくる。呼吸と一緒にお腹が上下する動きも。そこにはたしかにもなかの命があった。
最初のコメントを投稿しよう!