遺す・・

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 学生達が、ああでもない、こうでもないと、水槽内にヒーターを設置するのに手間取っていた。 「先生、このヒーター、切れてるみたいです。」 「ん?、そうか。サーモのらンプが付かないのは、ヒーターじゃ無くって、さーもの故障かも知れないな・・。」 彼は学生達と交代すると、手際良く作業に取り掛かった。 「ほら、付いた。」 「わあ、先生、有り難う!。」 学生に礼を言われながらも、彼は淡々と愛想笑いをして、次の作業に移った。 「先生、この水槽、メッチャ汚れてるんだけど。」 「ん?、どれどれ・・。」 水換えをすれば済むことではあるが、彼は学生の疑問に答えるべく、 「ああ、こりゃ、エサのやり過ぎだな。取り敢えず水換えをして、昨日誰が餌やり当番だったかを調べてみなよ。」 「はい。」 学生は彼の指示に従って、速やかに水換えを始めた。彼は順路を回っては、飼育施設内の水槽を眺めつつ、 「うん、大分、マシにはなったかな。」 そう呟きながら、学生達の様子を涼しげな目で見守っていた。  彼がこの地に辿り着いたのは、半年ほど前のことだった。バブル期に乱立した、動物飼育に関するとある専門学校。どの業界も企業が盛んで、実に華やかな時代だった。彼も若い頃、一度はその手の業界に属して、とある学校で講師をしたことが合った。しかし、努めて数ヶ月経ったある日、 「プルルルル。」 夕方頃になった携帯に気付いた彼は、 「もしもし。」 「あ、先生。ニュース見て!、ニュース!。」 と、電話に出ると同時に、慌てる学生の声に驚いた。そして、テレビのニュースを見ると、 「なお、学校経営者の人物は、国外に高飛びした模様で・・、」 と、見覚えのある建物を映しだしていた。どうやら、彼の努める学校が突然、倒産したらしかった。 「・・そうか。やっぱりな。」 不穏な空気は一カ月ほど前から察知はしていた。スタッフ達の給与の遅配。研修が済んだばかりの新人スタッフの一斉解雇。どう見ても尋常では無かった。学生と話を追えた彼は、取り敢えず校舎に向かった。そして、いつもは学生達が賑やかに出入りする玄関付近に、一枚の張り紙が貼られているのに気がついた。 「連絡先。破産管財人。」 彼はそう呟きながら、あらためてこの学校が潰れたことを認識した。 「はは。折角だから、記念に・・。」 そういうと、彼はカバンの中から小さなカメラを取りだして、破産宣告の張り紙を背景に、ピースサインで写真を撮った。そして、 「いつまでも景気がいいなんてことは、無いよなあ・・。」 そう呟きながら、繁華街をトボトボと歩いていった。彼は物心ついたときから、魚を飼うようになっていた。父親が趣味で魚を飼っていたため、そうなることは、必然的と言えよう。そして、いつの頃からか、そういう世界、例えば、ショップの店長や、研究者のような進路を目指すようになっていた。そして、決して順風満帆とは言えない時を経て、ようやくとある大学に入学することが出来た。学生時代も学校とは折り合いは悪く、理不尽な学部の姿勢に対抗すべく、喧嘩に明け暮れる始末だったが、魚のことを学ぶという姿勢だけは、決して崩さなかった。そして、研究の世界へ進むべく、色んな大学を転々としながら、研究施設で研鑽を積んだ。ただ、研究の世界は徒弟制の色合いが濃く、教授の指示に如何に従順になれるかということが求められた。跳ねっ返りの彼は、そんな空気感に嫌気がさし、研究の世界とは袂を分かった。それでも、魚のことについて何らかの関わり合いを持ちながら、仕事の需要でもあればと、唯一、気心の知れた教官が教えてくれたのが、件の潰れた学校だった。場末のゲームセンターに立ち寄ると、彼はいつものように硬貨を投入して、テーブルゲームに没頭した。家族も抱え、生活に対する不安も多少はあったが、彼は不思議と自身の運命に対して、 「ま、こんなもんだろう・・。」 という感慨を、常に抱いていた。ことバブル期の世の中に対して、彼はみんなと同じように浮かれるでも無く、かといって、堅実に自身の仕事や生活を見据えるでも無く、ただただ淡々と、 「魚でも眺めて、生きてりゃ、それでいいや。」 そんな暢気な暮らしぶりだった。しかし、例え潰れる予兆のあった学校でも、講義の際に自身の教える内容に対して、 「うーん、これじゃあ不十分だなあ・・。」 と、自信の持てる能力に厚みが無いことを常々実感していた。自然や生物を相手に何らかの観察眼を持つこと、そして、そのことをテーマとして何かを研究するということは、決して甘い物では無い。ただ単に現象として見えることでも、その奥には何らかの傾向や普遍性が潜む。そして、そのようなものをどれだけ見て来たか、触れてきたか。そういうものを幾つも経験することが、自身の語る厚みとして脳裏に刻まれるということを、彼は体感していた。 「ま、折角身軽にもなったし、仕方無い。また舞い戻るか・・。」 総ゲーム機の画面に呟くと、彼は途中でゲームを辞めて、その場を立ち去った。  その後、とある著名な大学の研究施設に、彼は偶然転がり込むことが出来た。最初は研究生という立場で飼育施設で魚の世話をすることになった。春先に生まれる海の魚を育てるべく、彼は単身赴任で日本海の海を眺めつつ、そこで若い学生達に交じって、再び研究を開始した。そして、一年後、 「学位でも取ってみるか・・。」 彼は正式に大学院の博士課程に合格し、本格的に其処で研究生活を再開することになった。流石に著名な大学だけあって、その施設には様々な国から共同研究を希望する者達が訪れた。少々英語の出来た彼は、その地に留まってホスト役として彼らを迎え入れ、研究のサポートもするようになっていた。春にはまだ早い冬の朝、彼は雪の積もる施設の中で、朝の暗いうちから一人起き出して、魚の稚魚に餌を与えるべく、生きたプランクトンの採取を始め、海外の研究者が希望する魚の稚魚を育てて取りそろえるのが日課になっていた。自ずと、現場で培われるスキルも、そして、海外の研究者とコミュニケーションを毎日取ることで、語学も身についていった。これまでにも、ちょっとした魚の生態や生理、様々な魚種の分類など、そういった知識や経験は身には付いていた。また、趣味で飼っていた魚の飼育技術も、それなりには持っていた。しかし、自身でこれぞと言える、そんな芯の太い経験が備わっているとは、どうしても思えなかった。学校で教える際、どれだけの知識が備わっていても、それが生きた言葉として口からスラスラと出ることは無かった。常に次の授業に向けて、ひたすらネタを仕入れるべく書籍を下調べをする、そういう毎日の連続では、じきに消耗してしまう。いや、それ以前に、疲れ果てて嫌になってしまう。その経験が、彼を苛んでいた。 「いつ何時、どんな角度からでも、魚のことを尋ねられても、スラスラと答えられるような、そんな人間にはなれないものだろうか・・。」 一朝一夕に、そんなに便利な人間になれるはずは無い。そのことは彼も十分に解っていた。だからこそ、夜明け前の暗い施設内で、寒さに手を凍らせながら、一人静かに淡々と養殖のスキルを学ぶべく作業をする。こういうことの積み重ね、そして、その時々に生じた疑問や問題を解決すべく、日々調べ物と試行錯誤にふける。それこそが、唯一、自身を魚を深く知る身にさせてくれる。彼はそう信じて疑わなかった。  静かで、ただただ魚と向き合うことの出来る施設。家族とは離ればなれで寂しい気持ちはあるが、彼には今此処を去ってしまうと、以後の人生でどうにか家族を養える自信を得る方法を見出せなかった。故に、過酷な環境にも耐えながら、彼はひたすら、魚の稚魚を育てることに打ち込んだ。しかし、悲しいか、敵は自然だけでは無かった。気のいい外国人達は日本での生活を楽しみながら、研究に没頭していて、彼とも気が合った。しかし、同じ日本人なのに、どうしてこうも関係が拗れるのかというような連中も少なくは無かった。やたらと威張り腐って、彼に喧嘩腰でものを言うヤツ。長髪で気取りながら施設内を歩き回り、外国人の研究者相手に、 「ボクは酒が強いんです。」 とかぬかしながら、ジャックダニエルをがぶ飲みしたのはいいが、その後、寝室で嘔吐して異臭が漂い、そのことを腹立たしくは思いながらも、彼はそいつを気遣うべく、 「昨日、大丈夫だった?。」 とたずねるも、 「え?、何のこと?。」 と、知らん振りなのか、酒のせいで本当に忘れているのか、いずれにせよ、どいつもこいつも、ぶっ飛ばしたくなるような輩ばかりだった。彼は腕に覚えはあったが、 「今此処で騒ぎを起こしても、研究の道がパーになるだけだしな・・。」 と、辛抱するでも無く、ただただ魚とのみ、向き合っていた。それでも、どうしてもフラストレーションが溜まったときは、 「ドカッ!。」 っと、施設中に響くような大きな音で、壁に正拳突きを食らわせて、数カ所に大穴を開けていた。そうやって過ごすうちに、季節は蝉の鳴く頃になっていた。海外の研究者達も、自身の研究を終え、次々に帰国していく中、彼は自身の研究と、次に来る海外の研究者のための準備をしていた。しかし、 「ギクッ!。」 ある日の午前中、何気に体を動かしていたら、腰の辺りに鈍痛が走った。体力には自信があったが、彼はその痛みに抗えなかった。当然、過酷な現場作業を続けるのは無理であった。仕方無く、彼は本学部の地下にある実験施設に呼び戻され、其処で別の魚の実験をするように言われた。 「ま、規模は小さくなったが、魚の養殖に関する実験は継続出来るな・・。」 気を取り直した彼は、ようやく治った腰を労りつつ、地下の施設で腰を労りながら、別の魚達を相手に研究を続けた。海から集められた小型の魚を繁殖させることが、彼の次のミッションだった。  彼の新たな実験は、以前より遠くに行ったり、単身赴任を長期間強いられるものでは無かった。毎日家から通って、地下の実験室に向かって、誰からも邪魔されること無く、研究に打ち込むことは出来た。しかし、やはり生き物相手に何かデータを取るというのは、そうそう上手くいくものでは無かった。 「うーん、産卵期を調節して、受精卵を得る。そして、稚魚を発生させる所までは行くんだけどなあ・・。」 以前に行っていた魚の実験では、魚体が比較的大きかったため、育成は比較的容易だった。最初に与えるプランクトンも難なく食べてくれた。しかし、今行っている小さいスペースに飼育されている魚達は成魚サイズが小さかった。故に、生まれた稚魚も口が小さく、そのサイズに合うプランクトンが、どうしても手に入らなかった。仕方無く、ワンサイズ大きめの魚種に変更して実験を行ったが、今度はプランクトンは食べてくれるものの、正常に育つ稚魚がほとんど現れなかった。 「今度も駄目か・・。」 研究のデータを取って、それを論文に書きしたためる。それが研究者の務めであるが、彼には十分なデータを記すだけの結果が全く得られていなかった。焦りはあった。このままでは学位は得られない。しかし、周りの若い学生と異なり、彼は遠回りした人生を送ってきた分、 「ま、生き物のことだし、仕方無い・・な。」 そんな風に捉えていた。そして、そんな暢気なスタンスが、結局は彼を研究の世界から遠ざける結果となった。データ取りにあくせくしたり、教授陣に媚び諂う学生達を見ながら、 「あー。オレには無理な世界だなあ・・。」 と、次第にそう思うようになっていった。それに、生き物の研究というのは、その都度、サンプリングと称して、生き物を殺してホルマリン漬けにしたり、ひたすら内部構造を調べたりといった作業を繰り返す。彼は魚を飼うのは好きだったが、研究者が日常的に行う、サンプリングと称する作業を、正直好きにはなれなかった。結局は、志半ばではあったが、彼はまた、研究の世界から去ることになった。研究者としては、中途半端な去り方であったかも知れない。しかし、以前と比べて、何らかの手応えのようなものは得たと、そう確信していた。そして、食べていくために、彼は魚とは全く関係の無い、教育産業の世界で働くことになった。自身の受験の際に培った勉強に関する知識と、人前で話すことに全く臆さないという性格が、どうやら教育産業には向いてるようだった。以後、彼は塾講師として働き、趣味で魚を飼うと言う生活になっていった。  以来、数十年、彼は仕事をしつつ、趣味として魚について飼育したり下調べをしたりという生活をひたすら続けた。時折、専門誌の依頼に応じて執筆をすることもあった。後には、勤めていた所から独立して、自身の教室を持つことも出来た。その際、 「折角だから、ショップも作ろうかな。」 と、教室の横に小さな小さな魚を売るショップを併設させた。子供の頃に一度は夢見つつも、それで生活するのは無理だろうと思っていた熱帯魚屋さんを、彼は持つことが出来た。その頃には、夢が叶って嬉しいというよりは、 「ま、儲からない世界だし、駄目だったら、潰れちゃう・・な。」 と、そんな程度にしか思ってはいなかった。死ぬまでに一度は、夢を叶えておいた方が、死に際になって悔いは残らないだろうと、そういう気持ちだった。勿論、自営で食っていくのは、容易なことでは無かった。開店前の資金繰り、改元後の、超低空飛行の経営維持。いつが辞め時かを、日々自問自答するような、地獄の日々も少なくは無かった。案の定、次第に精神が蝕まれ、もはや、教室も店も、維持するのは困難な所まで来ていた。しかし、 「ま、最後に自分の好きなようにやって、それで駄目なら、お終いさ。」 と、薬を飲んで頭を労りつつ、これまでは売れ筋に拘った品揃えだったのが、どうせ辞めるならと、最後は自分が最も好きだった魚の品揃えに変えて、パッと散ろうと、そう考えた。ところが、その思惑が妙に当たり、マニアックな品揃えに、次第に魚が売れるようになっていった。 「えー。自分の気持ちに正直にって、誰かもそう言ってたけど、正にそんな感じだなあ。」 商売とは、どんな具合にすれば成功するのか。彼はそんなことを頭の中に抱いたことは毛頭無かった。ただただ、心の中の思いに耳を傾けながら、その方向にフラッと進む、そんな人生を歩んでいた。 「好きと食ってく・・は、両立しない。そういうモンだろうなあ。」 彼の心の中には、運命の天秤のようなものがあった。好きなことに重きを置けば、食うに困るは必定。その結果、貧乏になるのも、やむなし。ただ、自分が喜ぶよりも、周りが喜ぶようにしていれば、まあ、バチは当たらないかなという、そういう思いで、彼は気負うこと無く日々を過ごしていた。その辺りまでは、そういう思いで過ごすことも出来た。  超低空飛行の経営状態ながらも、彼は小さな教室と小さなショップの主でいることは出来た。しかし、不況風には勝てず、オマケに妻の大病も重なって、彼の仕事はいよいよ、切羽詰まった状態になった。正にギリギリの精神状態に追い込まれたが、それでも、家族を養うべく、看病や家事の合間を縫って、彼は新たな職を探した。そして偶然、彼はネット上に、動物飼育の専門学校が講師を募集しているのを見つけた。 「へー、光言う学校って、潰れずに続いてる所もあるんだ・・。」 彼はかつての当惨劇を思い出しつつも、ひょっとしたら自身が培った知識や技術が役に立つのではと、その学校の面接を受ける事にした。まあ、どうせ潰れるかも知れないが、通ってきた道だし、そうなったとしても、もう驚くような歳でもないしと、そんな軽い気持ちだった。学校側の事務手続きのミスで、彼は専任講師の口はフイにしたが、気のいい校長先生が、 「何なら教えられるかね?。」 と尋ねられた彼は、 「恐らく、この手の学校で教える水生動植物のことなら、何でも出来ると思います。」 と、若い頃に味わった経験不足の苦い記憶と、その後の武者修行の経験を踏まえて、自信満々にそう答えた。幸い、その手の講師が手薄だったらしく、彼はその学校に潜り込むことが出来た。というよりは、気のいい校長先生に拾ってもらったと言った方がいいだろう。生活の不安と妻の病気という不安を抱えながらも、彼の出稼ぎ生活は春の余韻を感じる間もなく、突然始まった。学生達の学ぶ姿勢や意識の低さには、多少驚かされたが、彼には長年培った教育産業での経験もあり、そんな学生への対処法も十分承知はしていた。しかし、普通の学校とは異なり、動物のことを学ぶにしては、その学校には致命的な欠点があった。 「それにしても、この学校、生体が少なすぎるなあ・・。」 彼は学生達のモチベーションが上がらないのは、この学校が学生に対して、本当に生物のことを学ばせるつもりがあるのだろうかという、そういう疑念がどうしてもあった。仕方無く、彼は自身がショップをやっていることもあり、学校側には内緒で、全て自腹で生体を調達しては、施設に持ち込んで、生体を拡充するという、そういう行動に打って出た。本来は、学校側の決裁が下りなければ、生体の購入は御法度という制度になっていたが、 「そんなもん、気にしてられるかよ!。生き物がいなけりゃ、ワクワクもしないだろう!。」 彼はそう思いながら、ひたすら生体を拡充させていった。そんなある日、ついに生体を持ち込んでいる彼に対し、学校側の重鎮が、怒りの声を上げた。彼が箱に入った魚を校舎に持ち込んだ際、 「おい!、一体、誰の許可を得て、そんなことしてるんだ!。」 と、えらい剣幕で彼を指差しながら、詰め寄った。彼は此処に赴任して、まだ半年も経ってはいなかった。オマケに非常勤講師という最も弱い立場でもあった。いつクビが飛んでも可笑しくない。家系のこともあるし、此処で揉めるのは全く得策ではない。しかし、とあるイベントを目前に、学内の生体が少ないのを心配して、 「少し生体を増やしましょうか?。」 と彼が尋ねた際、それを了承したのは、今目の前で激高している人物である。と、突然、彼の後頭部辺りで、 「ブチッ!。」 という物音がしたかと思うと、その人物に思いっきり顔を近付けて、 「あのな、ワシは命がけで魚のこと、やっとるんや!。こんなしょぼい生体の品揃えで、どない学生に魚のことを学べと言うんや!。お?。」 そういって、彼は睨み付けた。 「そんな命がけなんて、大袈裟な・・、」 さっきまで激高していたその人物は、急にトーンを下げてそういった。しかし、 「アンタにはそうかも知れんがな、ワシはこれしかやって来なかった人生なんじゃ!。だから、魚のことを伝えるべく、ワシは此処におるんや!。もしワシのことが邪魔やったら、いつでもクビ切ってくれたらええ。しかし、もし、こんなワシでも、ワシの持てる技術やスキルが、此処に役立つと、そう思ってくれるんやったら、ワシは命かけて此処で魚のこと教えたる!。そして、学生が業界でやっていけるように育てたる!。どうや!。」 そう言うと、彼は鋭く睨み付けた。さっきまであれだけ激高していた人物は、 「じゃあ、それでお願いします・・。」 と、泳いだ目で承諾した。この時、彼は、 「しまった・・なあ。また、やっちまったなあ・・。」 と、自身の性分を若干悔いるような気持ちも湧いていた。しかし、後には退けない。 「ワシはこういう人間やけ、忖度は一切出来ん。そやけど、物分かりはいい方やとは思うので、率直に言うてくれたら、何でもやりますから。」 少し申し訳なさそうに、彼は自身の言い様を詫びながら、そう伝えた。そして、話を追えた後、彼は魚を運び込んだ後、 「年甲斐も無く、何やっとるんやろう、ワシ・・。」 そう呟きながらも、少々胸の空く想いで、少し賑わった水槽を見ながら帰路に就いた。
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