弟子③

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弟子③

師匠が財布を盗む瞬間、僕は師匠の尻ポケットに入っていた長財布を抜き取った。 私服警察の目がない事を用心し、周囲の乗客に気付かれる危険に注意を払い、被害者に覚られないように慎重に慎重を重ねる犯行のタイミング。 師匠は完全に自分の財布への警戒心をなくしていた。 今までに繰り返し見た師匠の技を盗み、自分なりに考え抜いて思いついた師匠からの卒業テスト。 スリの師匠から財布を()る。 これが上手くいけば自分の実力を師匠に示すことが出来る。 この後、師匠に向かって財布を見せ付け、高らかに卒業宣言しよう。 「僕はもう、一人前ですよっ!」と。 一応、自分の戦果を確認するため、師匠の財布に入っている金額を確かめてみる。 さぞ、たくさんの金額が入っていることを期待していたのだが、紙幣が入っているはずのスペースに目的の品はなく、代わりに一枚の紙が入っていた。 二つ折りにされている紙を取り出し開いてみる。 そこにはヘタクソな手書きの文字が書かれていた。 『残念だったな。お前に才能はない。スリになるのは諦めろ』
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