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今日は12月24日、クリスマスイブだ。全国各地ではクリスマスにちなんだイベントが行われている。その中には家族連れやカップルがいて、イベントを野楽しんでいる。
そしてこの東京ディズニーリゾートでもイベントが行われている。今日も多くの客が訪れるが、クリスマスのイベントの時はより多くの人がやってくる。それらは特に、家族連れやカップルに人気だ。
すっかり夜になり、人々が特定の道の周囲に集まる。東京ディズニーリゾートの夜の名物、エレクトリカルパレードだ。様々な装飾を施した乗り物が会場をパレードする。多くの人々が楽しみにしていて、見る者を感動させる。
そんな人混みの中に、1組のカップルがいる。小野隆之(おのたかゆき)と西浦冬子(にしうらふゆこ)だ。付き合って1年にも満たないカップルだが、その中はそう思えないほど睦まじい。そろそろ結婚を考えてもいいぐらいだ。
「今日は誘ってくれてありがとう」
「どうしたしまして」
隆之は笑みを浮かべた。東京ディズニーリゾートに誘ったのは、隆之だ。クリスマスイブを特別な場所で迎えようと、有休を使ってここにやって来た。
「ディズニーリゾート、前から行きたかったのよね」
冬子はうっとりとしている。何回か行った事があるが、行っても行っても飽きない。どうしてだろう。次から次へと様々なアトラクションができるからだろうか?
「僕もだよ。僕は幼稚園の頃に両親と行ったらしいんだけど、その時は全く覚えていない。で、小学校の時は家族と、中学校の時は修学旅行で行ったんだ」
隆之は何回か東京ディズニーリゾートに行った事があるが、大人になってからは全く行った事がない。だが、また行きたいという気持ちはあった。
「そうなんだ。私もそうだわ」
「そうなんだね」
ふと、隆之は以前に付き合っていた木原夏海(きはらなつみ)の事を思い出した。隆之がそれ以前に付き合っていた女だが、彼女はすでにこの世にいない。今年の春、交通事故で死んだからだ。今度のゴールデンウィークに東京ディズニーリゾートに行こうと約束していたのに、ゴールデンウィークを間近に突然この世からいなくなってしまった。
「夏海ちゃん、ゴール縁ウィークに行くって約束だったのに、それを前に亡くなってしまったんだよね」
「あれは大変だったね」
冬子もその事を知っていた。冬子は夏海の大学時代の友達で、隆之との恋愛を支援していた。だが、結婚を視野に入れてきた所での突然の別れだ。あまりにも衝撃的な事で、今でも思い出す。
「だけど、冬子ちゃんがそれを立ち直らせてくれた。本当にありがとう」
「どうしたしまして」
だが、突然最愛の人を失った隆之を立ち直らせてくれたのが、冬子だった。冬子にはとても感謝している。冬子がいなければ、今の元気な自分はないだろうと思っている。
隆之は空を見上げた。だが、夏海は見えない。晴れの夜空には、星が輝いている。そのどこかで、夏海は2人の恋を見守っているんだろうか? そう思うと、夏海がいつでも見守っていると思えてくる。
「夏海ちゃん、今頃天国で見てるかな?」
「きっと見てると思うよ」
隆之は夏海を失った時の事を思い出した。
それは今年の春の事だった。隆之はゴールデンウィークを楽しみにしていた。夏海と東京ディズニーリゾートに行くからだ。隆之は決めていた。東京ディズニーリゾートに行き、そこでプロポーズをするんだ。すでに結婚指輪を昨日、買ってある。準備は万端だ。あとはゴールデンウィークを待つだけだ。
突然、電話がかかってきた。この時間にかかってくるなんて、珍しいな。何だろう。隆之は受話器を取った。
「もしもし」
「小野隆之さんですか?」
冬子だ。どうしたんだろう。息が荒い。
「はい」
「夏海さんが交通事故で亡くなったのよ!」
それを聞いて、隆之は呆然となった。あまりにも突然の出来事だ。しかも、亡くなっているなんて。昨日はあんなに元気だった夏海がこんなにも突然、この世からいなくなるなんて。とても信じられない出来事だ。隆之は一気に地獄に落とされた気分だ。
「そ、そんな・・・」
「早く病院に来て!」
「わかった!」
隆之は受話器を置くと、冬子に言われた病院に向かった。死んでいるとはいえ、夏海に会わなければ。そして、最後の別れを言わないと。今日まで恋人でいたのだから、最後の挨拶ぐらいはしないと。
数十分後、隆之は病院にやって来た。病院の前には冬子がいる。冬子は涙を流している。大学時代の友人の死だ。あまりにもショックなのだろう。
「すいません」
すると、冬子は顔を上げた。
「あっ、隆之さんだね。こっち・・・」
冬子は夏海の遺体が安置されている部屋に案内した。2人とも、緊張している。その先に夏海の遺体があるんだと思うと、びくびくしてくる。どうしてだろう。
2人は遺体の安置されている部屋の前にやって来た。それは地下にある。とても静かな場所だ。人通りが少ない。
「こちらよ」
ドアを開けると、そこには夏海がいる。だが、目を開けない。もう死んでいる証拠だ。本当に死んだんだろうか? 眠っているんじゃないだろうか? いまだに隆之は信じられなかった。
「な、夏海ー!」
隆之は夏海をゆすった。だが、夏海は起きない。そして、体が冷たい。そして、隆之は夏海が死んだんだと感じた。
「うそだー!」
隆之はその場に泣き崩れた。あまりにもショックだ。そこに、冬子がやってくる。隆之を慰めようとしているようだ。
「大丈夫?」
冬子は隆之の頭を撫でた。早く立ち直ってほしい。また仕事を頑張ってほしい。
「大丈夫じゃないよ! どうしてこんな事に?」
「高齢者ドライバーがブレーキとアクセルを間違えたんだって」
高齢者ドライバーの交通事故は、何年か前から問題になっている。去年、祖父が危機感を抱いて、運転免許を返納したぐらいだ。
「そ、そんな・・・」
隆之は交通事故で夏海が亡くなったのが信じられないようだ。まるで悪夢を見ているかのようだ。だが、それは夢ではなくて現実だ。
「どうして・・・」
隆之はまた泣き崩れてしまった。それから数時間、隆之は泣き崩れてばかりだったという。
それから数日後の週末、隆之は部屋にいた。2人ですんだ部屋はもぬけの殻のようになっていた。帰ってくると、そこに夏海がいたのに、誰もいない。それだけで物足りなさを感じる。物足りなさを感じて、涙が出てくる。
そこに、冬子がやって来た。誰かの物音に気が付き、隆之は顔を上げた。冬子は心配してやって来たようだ。
「大丈夫?」
「冬子ちゃん?」
隆之は元気がなさそうだ。仕事は問題なくこなしているが、帰ってくると寂しくなる。夏海がいないだけで、こんなにも寂しいんだろうか?
「残念だったね。そうだ、気晴らしに、一緒にどこかに出かけようか?」
「うん」
冬子は気晴らしに一緒に東京をめぐる事にした。それから、隆之の冬子の同棲生活が始まった。最初は戸惑っていたものの、すぐに慣れてきた。そして、今日を迎えた。
2人は流れる電飾を見ていた。とても幻想的だ。思わずうっとりとしてしまう。ここに来てよかった。
「あれからいろいろあったけど、冬子ちゃんと出会えてよかったよ」
「ありがとう」
ふと、何かの気配を感じて、隆之は横を向いた。そこには夏海がいる。もう死んでいるので、幽霊だろう。まさか、夏海の幽霊が出るとは。
「隆之くん・・・」
隆之は呆然となっている。どうして今になって来たんだろう。
「冬子ちゃんと結婚して?」
隆之はうなずいた。夏海に言われたが、以前から決めていた事だ。今日、今までの想いをぶつけるんだ。そして、夏海が果たせなかった結婚生活を、冬子と迎えるんだ。夏海の分も、冬子を愛するんだ。
「きれいね」
「やっぱディズニーリゾートといえば、エレクトリカルパレードだよね」
「うん」
2人は電飾に釘付けになっている。周りの人々も同じだ。
「なぁ冬子ちゃん」
「何?」
と、隆之は結婚指輪を出した。まさか、結婚してくれというんだろうか? 全然大丈夫だけど。
「結婚、しようかな?」
「いいけど」
冬子は喜んでいる。隆之はほっとした。フラれるんじゃないか、結婚を許してくれないんじゃないかと思った。だが、すんなりと受け入れてくれた。
「ありがとう。夏海ちゃんも喜んでいると思うよ」
「そうだね」
2人は再び空を見上げた。夏海が果たせなかった新婚生活、2人で送っていくよ。だから、空から見守っていてね。
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