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哀しい兵器
「あの、母親になってもらえませんか」
「はぁ!?」
釼谷 ささらは突然の言葉に素っ頓狂な声をあげた。独身生活45年の男よりも自分の楽しみ、仕事が好きな自分に一体何の冗談かと声をかけてきた隣の部署の男を見やる。確か、青野だったか。
さすがに説明が足りな過ぎたと気付いたようで手にしていたバインダーを持ち直して改めてささらを見る。
「先日目覚めた人造人間、黒のマリア。一応情緒を持たせたいので親が欲しいのです」
ささらは僅かに眉間に皺を寄せる。黒のマリアは特殊能力を持つ7人の遺伝子を使って創り上げた“卵”に刺激を与え細胞分裂を誘発して成長させた兵器目的の人造人間。成長過程で様々な要素を注入した結果、人型ではあるが人間とは思えない見た目に成長したと聞いていた。そして、ささらは遺伝子提供のひとり。
「他にもいるんじゃないの?」
「それが……」
言い淀む青野をじっと見つめる。圧に負けたように青野はため息をついた。
「見た目が怖いから嫌だと……」
今度はささらがため息をついた。勝手に生み出され、いじられ、外見を好き勝手にされて、嫌われる。ずいぶんと不憫な生命体だ。とはいえ、引き受けるのも抵抗がある。
「あのさ、私は独身で、子どもも苦手なんだけど」
「小学校6年生くらいの見た目です。なので幼い子どもって感じはない、はず……です」
「子どもには変わりないでしょ」
「せめて、一目会うだけでも」
「見て断ってもいいんだよね? 他の人も断っているんだから」
物言いたげな顔でだんまり。これは梃子でも動きそうにない。ささらはうんざりとため息をついて立ち上がった。
「行くだけ行ってやるわ」
ホッとした顔で案内に歩き出す青野の後に続きながらささらは冷めた心地で黒のマリアのことを考える。
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