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数時間後、外出先から戻ると青野が待っていた。思わず顔をしかめる。青野が深々と頭を下げた。
「ちゅらに会ってあげてくれませんか」
絶対に嫌と言おうとした。だけど、
「ずっと、泣いているんです。ママ、ママって」
ズキンと胸が痛んだ。
「聴いている方が泣きたくなるような声で泣いています。あの後から暴れていません。他の人にもごめんなさいって謝りました。拘束は……していません。それこそ、あんなに泣いている子どもを拘束するのは気が引けるので」
ささらの脳裏にいつだか言い聞かせた自分の言葉が蘇った。
『悪いことをしたら、ごめんなさいをするんだよ。失敗はする。でも大事なのはその後』
ああ、私も謝らないと。感情に任せて言い過ぎた。苦い思いが広がってささらは青野の横をすり抜けてちゅらのいる部屋へ。
「!」
泣きじゃくっている。まるでこの世の終わりみたいな顔して。湧きあがってきたのは深い罪悪感だった。ゆっくりと近付いてちゅらの頭に手を置いた。自分の泣き声で気付かなかったのだろう。驚いて顔を上げたちゅらの目は涙できらきらとしていた。
「……げんこつ、痛かったでしょ。でもね、怪我はもっと痛いの。……ごめんなさい、できたって聞いた。えらかったね、ちゅら」
「……ま……マ……マ、ごめん、なさ、い……ごめぇ……きらぃ、やだ……」
ああ、大嫌いなんて言わなきゃ良かった。ちゅらを引き寄せ抱きしめる。少し冷たい体がびくっと揺れた。初めて撫ぜる髪は少ししっとり冷たい。氷雨が髪に変わったらこんな感じだろうか。
「ママも……ごめんね。失敗しても頑張れたちゅらはえらい。良い子。……大好きだよ」
いつの間にか大きくなっていた存在。腕の中で安堵の大泣きをするいとし子。母と慕ってくれるこの子を戦いになんて行かせたくない。命を奪ってほしくない。そのために一緒に成長しよう。
「毛布ちょうだい、今日は一緒に寝るわ。っていうか、ベッドくらいないの?」
止める人はいなかった。部屋にはベッドが運び込まれ、その日を境にちゅらは拘束を殆どされなくなり、ささらは任務がない限り毎晩一緒に眠るようになった。意外なほど反対がなかった。あとで青野が教えてくれた。本物の親子以上に親子だって思ったから有りだなってみんなが納得したのだと。
ささらは寝息を立てているちゅらの顔を見ながら前とは違う自分に思いを馳せた。世界平和を目指していたのは元からだけど、ちゅらに出会って、ママと呼ばれて、愛される以上にちゅらを愛している自分がいて、ちゅらに任務が当たらないように平和を守りたいと強く思うようになった。以前は任務のためなら多少自分を犠牲にしてもいいと思っていた。けれど……この子、泣くだろうなって思ったら無事に帰ろうと思うようになった。
「血は繋がっていなくても……母になれるものなのね」
いつの間にか育っていた母性。良い子に、優しい子に育てたいと願う。
「ママじゃないけど、ママでいさせてね。ちゅら」
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