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「結局、一緒に帰ってきちまった……」
アパートのドアの前でため息をつくと、俺は傍らのガキ――こんな迷惑な奴はガキで十分だ――に目を遣った。期待の眼差しで見上げてくるのが、思いがけず愛らしくて、ちょっと心が揺れそうになる。
「一泊だけだぞ? 俺も、何で俺の名前知ってるのか聞きたいし」
「おー」
楽しそうなガキに、人の気も知らないで、と内心毒突いて、俺はドアを開けた。
大して広くないワンルームだ。入ってすぐのところに洗濯機とユニットバス。中古のベッドフレームに載った安物のマットは、四年近く使ってすっかりへたっている。円形の座卓に積んであるのは、図書館から督促状が来ている本だ。
「適当に座って」
「汚い」
「は?」
「こんなホコリ溜まってて、よく平気だな。しかもあのキッチン! あり得ないだろ」
ズビシッ、とガキが指差した一角には、カップ麺の空容器や使用済みのまな板や食器が放置されたミニキッチンがあった。
「あのな。人には事情があるんだよ」
「なあ。どっかにイスか何かないのか?」
イラッとしつつ、収納箱を兼ねた四角い腰かけを持ってくると、ガキはそれをキッチンの前に運んだ。その上に「よっ」と乗る。スポンジをつかんだ彼は、俺に振り向いた。
「おい堀川、自分ちだろ? 見てないで手伝えよ」
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