【超短編】裏切りものには鎖が似合う

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 山で暮らす家では、狩りの腕前こそが力関係を決める。  僕は身体が小さい。だから力もないし、足も遅い。 「役立たず」「うすのろ」「お荷物」「負け犬」「無駄飯食い」  当然、兄弟は僕を虐める。 「みんなで寄ってたかって、なんて狼藉を! 恥を知りなさい!!」 「やべぇ! 母ちゃんが来たぞっ!」 「大丈夫? シバは思いやりも協調性もある、私の宝物よ」  母は僕を守り、温かく包み込んでくれる。 「シバ。最初から上手くなんて父ちゃんもできなかったぞ」  見捨てず父は、何度も狩りを教えてくれた。  夏の終わり、大洪水が起きる。  水が一気に家に流れ込んだ!!  優しい両親は幼い僕らを守り、死んでしまう───。 「ぅおおぉォ───!!」  ないた。喉が痛くなるほど。  僕らはまだ、親を失うには幼過ぎた。  けど悲劇はここからで、僕らは食事に苦労する。  狩りは、役割分担して協力して行うんだ。  司令塔の父がいないと、全く上手くいかなかった。  けど失敗しても、諦めるわけにはいかない。  雪が降ったら、食糧となる獣は冬眠してしまう。  長男を新たな司令塔に、僕らは狩りに挑戦する。  来る日も来る日も。 「やった──!!」「よっしゃっ」「オシッ!」  ついに僕らは狩りに成功した!  嬉しくてたまらなかった。なのに。 「シバは役に立ってないんだから、あんま食うなよ」  腹を空かせ苛立つ兄弟は、僕をさらに虐めるようになった。  止める両親もいないんだから、仕方がない。  なんとかして、役に立たなきゃ!  僕にだってプライドはある。  お荷物の、負け犬のままでいるもんか!  ひとりぼっちで川沿いを下り進むと、谷に村を見つけた。  大洪水の影響はうちより酷い。廃墟も多い。 「あら。お腹空いてるの?」  僕に気づいたおばさんが肉をくれた。  翌日も、谷の村に行く。  おばさんは魚をくれた。  浅ましい僕は、ひとりで食べたんだ。  「持ちかえる」とも「兄弟の分も」とも言い出せなかった。  腹ペコで限界だったし。  けどそれは、妹も一緒で───。 「シバから魚の匂いがする」  妹は言った。 「シバ。魚を捕まえられるのようになったのか?」  長兄は、目を輝かせて喜ぶ。 「違うんだ。谷の村のおばさんに、もらったんだ」 「大丈夫なのか? 明日は俺も一緒に行こう」  ところが、おばさんは長兄を見て、怯えて逃げてしまう。 「兄さんは大人に見えて、僕は子どもにしか見えないからかな?」 「まあでもさ。人様に恵んでもらおうなんて考えは、卑しいもんな。シバも、もう来ちゃいけないよ」  長兄の言うことは、もっともだ。  けど腹が減ってたまらなくなると、おばさんの元に行く。  ほの暗い優越感もある。  だって僕だけに、おばさんは食べ物をくれるんだ。  雪の日、事件は起きた。  僕の足跡をたどって、谷の村人たちが、僕らの住む洞穴に来たんだ。  そして僕の兄弟全員を、鉄砲で撃ち殺してしまう───。 「ああ。恐ろしい狼を駆除できてよかった!」  駆除って何?  僕の兄弟は、人間に何の罪も犯してない。  そりゃ虐められて、まったく恨んでないと言えば嘘になる。  けど、一緒に育った兄弟こそが家族なんだ。 「かわいい柴犬だ。餌付けしてよかったよ」  村人は、僕には首輪と鎖をつけた。  薄々気づいてただろ?  僕は狼じゃないって。  もう僕は、自由に走り回れなくなった。  鎖につながれ、与えられた餌を食べるだけ。  兄弟を死なせた裏切りものには、お似合いだろ?
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