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昼の月
一年の最後の月になると、出版社勤めの春一は、家に帰るのが連日午前様になった。
世話になっている関係者、原稿を依頼する作家たちへの接待続きの夜となるのだ。
しかし鈴音は、首を傾げながら思った。
『去年もこんなに飲んで帰って来たかしら』
いくらなんでも、こんなに毎晩ではなかった気がする。
春一が安心して、家を鈴音に任せている結果かもしれないけれど、それでも、手も付けられないまま、冷蔵庫の中で冷たくなっていく春一の分の夕食を見ていると、ちょっと悲しくなってくる。
そんな風に考えていると、その日はたまたまバーの仕事が休みで家にいた夏樹と、やっと帰ってきた春一が鉢合わせした。
「夜遊びもいい加減にしろよ、お兄ーちゃん」
夏樹はイヤミっぽく言った。
「毎晩派手に騒いでいるイケメンがいるって、巷の評判だぜ」
酔いのまわった顔で鈴音から水を受け取っていた春一は、ちょっと困惑した顔をする。
「それは、俺じゃないとは思うが……」
「評判になるほどのイケメンが、俺の他に何人もいてたまるかよ」
夏樹の自信はたいしたものだが、そういう問題ではなく、春一は決まり悪そうに横を向いて水を飲んだ。
「……仕事なんだよ」
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