こどくな趣味

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「おまえには水がいるな……待ってろ、すぐに用意してやるからな」  だが、カエルにはやはり水が必要だ。キッチンからホースを伸ばし、まだ空いている水槽に半分ほど水を入れてやると、ホームセンターで買った石もいくつか配置し、さっそく虫籠からキイロフキヤガエルをそちらへと移してやった。  透き通った水の中へチャポン…と落ちた黄色いカエルは、すぐにスイスイと泳ぎ出してたいそう元気そうだ。  しかし、店から家までの長い旅路にずいぶんとお腹も空いていることだろう。あとで餌のショウジョウバエもやらなくてはな……。 「……さて。だいぶ素材(・・)も集まった。そろそろ始めてもいい頃合いだな……」  その自然物とは思えない、なんとも(あで)やかな黄色い身体をしばしの間()でた後、今度は水槽のマンション全体をぐるりと眺め、誰に言うとでもなく独り呟く。  それから部屋の隅に置いてある、常滑焼きの巨大な壺へとその視線をゆっくり移した。  その大きな壺こそが、私の趣味(・・・・)の根幹を成すものである……今夜手に入れたキイロフキヤガエルももちろんのこと、これまでに集めた有毒生物をすべてその壺の中へ入れ、最後の一匹になるまでサバイバルバトルを繰り広げさせるのだ。  そう…… 蠱毒(こどく)を作るのである。  蠱毒(こどく)──それは、古代中国に由来する呪術の一種である。  蛇やカエル、ムカデ、クモなどの毒のある(むし)(※いわゆる虫だけでなく、爬虫類や両生類等も含まれる)を百種一つの壺に入れ、互いに競わせて最後に生き残ったものが最強の〝毒〟となるというものだ。  〝毒〟とは呼ぶが本当の毒薬としての使い方だけでなく、それ以上に呪詛をかける道具としての意味合いの方がむしろ強い。  古く殷・周時代にはすでに行われていたとも云われ、我が国にも奈良時代頃には伝わってきていたらしい。その恐ろしさゆえに幾度となく禁令の出されていたほどだ。  この現代にその伝統を再現し、あくまでも趣味の範疇として、その蠱毒を家で作ってみようというのである。
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