立派な幽霊

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 〇月×日  幽霊にとり憑かれた。  朝、妙に肩が重たいなと思いながら、洗面台に立つと、鏡の中の自分の肩に黒い靄のようなものが映っていたのだ。唖然としているうちに、そいつは次第に人の形になって、やがて妙齢の女性へと変貌した。  肩こりの原因はもしや、と直感した。  その人の顔に、俺は見覚えがあった。  確か名前は……佐東さん。  部署が違うからほとんど話したことはないけど、見覚えはある。  そのせいかもあってか幽霊だというのに、あまり恐怖は感じなかった。  俺は平静を装い、いつものルーティーンで会社へ行く準備をした。パンイチで鏡の前に立った際、佐東さんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、視線をそらしていた。  会社へ着くと、同僚の水口が開口一番に耳打ちをしてきた。 「となりの部署の佐東さん、亡くなったらしいぜ」  相変わらず情報収集の速さには感心させられる。  まあ、その人は今、俺の肩に乗っかってるわけだが。  佐東さんが亡くなったからと言って、会社の業務が滞ることはなく、いつものように俺は仕事を終えた。
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