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まぁ、そうですね
私はひょんな事からとあるタクシー会社の配車係になった。
その前はもちろんタクシードライバーだった。
その時の配車係(上司)から「内勤やってみないか?ドライバーよりランクが上の仕事だよ」と騙され、それまでの仕事に満足していたのだが、ちょっとだけ沸いた好奇心に負けてついつい二つ返事でOKを出してしまった。
内心合わなかったら辞めればいいやくらいの軽い気持ちだったのだが、、、。
しかし、なぜいきなり私などにご指名がかかったのかというと、単純に前の配車係が辞めてしまったからだ。
辞めたと書いたが、ある意味辞めさせられて当然というか、兎に角電話当番に向かない男だった。
彼がうちの会社の配車係になったのは本社で勤務している時になんらかの理由で免許がなくなったからで、そうなるとドライバーは出来ない。勢い辞めざる負えないところをなんとか内勤をやって凌いでいたのだが、本社でもやはり素行が悪く辞めさせられそうになったところをうちの会社(支社)の次長(支社のトップ)がまぁまぁと言って身柄を引き受けた事から始まる。
いわば情けをかけた形なのだがそれを情けと感じる様な人間ではなかった。
ドライバーの事を1匹2匹と数えて誰の目にもわかる程見下しているのだ。
まぁ、相手がドライバーなら百歩譲ってバカにしても良いが、お客様も当然の様に見下していて、どうしてもそれが電話越しにも伝わってしまうのだ。
なぜ彼がお客様を見下せるのかは謎なのだが、おそらく何らかの精神的な病によりこの世の全てを見下す事で精神的バランスを取ってるのかもしれない。
とは言え電話当番としては致命的である。
なぜなら電話越しでもその感情が手に取る様に相手に伝わってしまうからだ。
彼のせいで失った常連客は数しれず、怒らせた事案も計り知れない。
彼のせいで辞めようと思ってたドライバーも多かったという事が後になってわかった(私に代わってからみんなでそう漏らしていた)。
しかし、不思議なことにその接客態度や業務態度、ドライバーとのトラブルなどが原因で辞めた訳ではない。
単純に目が悪くなり、白内障だか緑内障だかの診察を受けてはいたのだが、結局のところは原因不明で北海道大学のお医者さんの話だと脳から来ているんじゃないかとの事で、とりあえず治しようがないらしく徐々に悪くなっていった。
そうなると、配車しようにも今どこから電話が来て誰に頼めば良いのかもわからなくなる。
ある意味ではそんな状態でも飄々と配車していたのは賞賛に値するとも言えた。
とは言え、結局どうにも目が良くならず、彼が辞める事になり。どうしようと迷った挙句に私にやらせようという事になったらしい。
そんなこんなでやったことのない内勤をはじめて、これが内勤ではなく軟禁に近いと理解するのにそれ程時間はかからなかった。
いままでのおきらく極楽な業務とは一変して、普通の社会人以上に拘束される仕事についてしまった。
なにせ24時間同じ部屋に篭って電話当番よろしく様々なドライバーの要求やら苦情の電話やらに対応しなければならず普通はあるはずの休憩時間も決められてないので適当な時間に自主的に休むしかないし、仮眠を取ろうにも一人しかいないので難しい。
更に普通のタクシー会社と違って決まった時間に点呼があるわけでもなく、皆んなが適当な時間に出てきては適当な時間に帰るので、誰も居なくなる時間というのがあまりない。
故にごく稀に訪れる誰も出社せず退社せず、会社に誰も寄り付かないだろうほんの数十分を見つけて仮眠を取る以外にない(だいたいそんな時に限って電話がかかってくるが)。
そんな一人24時間テレビ(誰も救わないけど)みたいなことを毎回やらないとならないのだから本来の意味で白羽の矢が立ったと言える訳だ(本来の意味というのは白羽の矢が立つの語源はいわゆる生け贄を決めていたという説による)。
しかも、ギリギリの人数で回してるので有給はおろか病気になる事も許されない(なっても出てこないとまずい)。
とは言え人間とは不思議な生き物でそれはそれで慣れるとできる様になるものなのだ。
そんなこんなで一年半ほどが経った。
その間に起こった不思議な事についてつらつらと書き起こす事とする。
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