緑の指

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 私は小さな頃から、この植物園を訪れていました。  祖父母の散歩のお付き合いに手を引かれて。父母とはお弁当を持って、ピクニック代わりに。  慣れ親しんだ場所は、考えなくても足が向きました。  嫌なことがあった日でも、ここに来てしばらくするうちに楽になります。広い園内をゆっくり歩いていると、身の回りで起きていることがちっぽけに思えてきます。  別に、木々が語りかけて慰めてくれるわけではありません。けれど、言葉よりも雄弁です。草の茂みから放たれるむっとした青い匂いや、チラチラと光り踊る木漏れ日。小川をチョロチョロと走る水の音。  ここではそれらを享受するために、全力を使わなければいられなくなるのです。  それからもう一つ、ここに足繁くやってくる理由がありました。
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