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その植物園は、ひんやりとしていました。
街なかなのに、まるで森の中にいるようなのでした。アスファルトばかりのビル群より、気温が少しばかり低いのです。
大きな木が何本も生い茂って木蔭を作るからでしょうか。そこに入り、木々を渡ってきた風を感じているうちに、汗がすうっと引いていきます。
いつの間にか、車の音も、街のざわめきも聞こえません。
ザッザッ。
踏みしめる玉砂利の音が響き、頭の上の高い所で鳥たちがピィーピィーと鳴き交わしていました。
その昔、お殿様が、遠くから輿入れされた奥方様をお慰めするために、四季折々の花咲く木々を植えられたのが始まりなのだそうです。
春の梅や桜は言うにおよばず、夏のさるすべりが見事でした。つるりとした幾本もの枝には、見上げるばかりに縮緬の花が咲きます。ざあっと葉音を鳴らす風が吹けば、ほろほろと散り、まるで雪が降るようです。白い雪。そして真夏ならではの赤い雪も、また一興なのでした。
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