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ユウギはユミと寝てるかもしれない。
いや、寝てる。
あれはただ一緒に寝てるだけかもしれないし
もっと何かあるのかもしれない。
でも、それが虐待なんだろうか。
「虐待」という言葉とは、何か違う、と乃愛は感じた。
もしあの部屋に「虐待」があるなら
ユミがユウギを虐待しているのではなく
もっと違う何かが、あの親子を虐待している。
「私は
ユウギはお母さんを守ってるだけだと思う」
トキザワさんは足を止めてた。
「あなた、何か知ってるの?」
乃愛の心臓がバクバクと警報を鳴らす。
さっき懸命に乃愛にしゃべりかけた
クリオネの真っ赤なハートより赤く、速く。
「ユウギ君とお母さんのこと何か知ってるの?
気になることがあったら
とても大切なことだから教えてほしいの」
下を向いたままの乃愛のトキザワさんはたたみかけた。
「あなたが話すことは私は誰にも話さないわ
それは守秘義務というモノで
ユウギくんや、お母さんにも、誰にも話さない。
あなたが知ってることがユウギ君の将来のためには
とても大切なことかもしれないの」
乃愛は今度は無性に腹が立ってきた。
でも、何に対して腹が立っているのかは説明できない。
「子供が親を護るって、間違ってるのよ
未成年の子供は親に護られるモノで
子供が親を護るのは違うのよ」
トキザワさんはキッパリ言い切った。
乃愛は黙ったまま歩き、赤信号で止まった。
信号の色が青緑に変わると
乃愛の心にもblueが静かに灯る。
警報を鳴らしていた赤い心臓は急に青ざめ
ゆっくり哀しげに打っている。
「あそこのマンションだから
ここからはひとりで大丈夫です」
乃愛はトキザワさんを振り切って
横断歩道を走って渡った。
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