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3、君をのせて
もう時期、夏休みが終わる。
数学の宿題のワークブックに
黙々と解答を写している乃愛の隣で
ユウギは丸めたマットレスに寄り掛かって
スマホゲームしてる。
ユミは新しく仕事が見つかり
乃愛とユウギは2人きりで部屋にいることが増えた。
夏休みの宿題とか別にしない、と、ユウギは言ってる。
でも、出せるもんは出した方がいいよ
というのが乃愛の意見。
自分の分はほぼ終わり、今はユウギの分を制作してる。
“中学、高校は卒業することに意義がある”
これは、乃愛の兄ちゃんの意見。
理由はその先を続けたくなった時に
卒業してないと不便だから、だそうだ。
国語…読書感想文5枚
生活体験文3枚
社会…新聞作り(地理か歴史)
数学…ワークブック
理科…自由研究(生物か化学)
英語…英文絵日記3日分
音楽…リコーダー練習、新学期すぐテストあり
美術…コンクール用水彩画一枚
技術・家庭…家族の食事を作り、一緒に食べ
ワークシートにまとめる。
(お菓子、友達同士は不可)
これが、中学2年の夏の課題。けっこう有る。
「リコーダーの練習
ユウギは要らないよね~」
だってユウギはリコーダーがすごく上手い。
それで乃愛は、たまに吹いてと頼む。
ユウギが吹き出すと
乃愛はうっとり聴くのだが途中から笑いだし
終いにはメチャクチャ笑って息ができなくなって
「やめて〜」と転げてしまう。
自分から頼んでおいて…
「ねえ、リコーダー吹いて」
今日も、乃愛はそう頼んだ。
ユウギは素直に、床に転がってたリコーダーを拾って
「君を乗せて」を吹き出した。
ユウギが生み出すメロディは丁寧で美しい。
でもやっぱり
乃愛はケラケラ笑いだす。
それはあまりに美しく、感動するから
泣きそうになるのを我慢すると
逆に笑ってしまう。
(何でいつも笑うの?)
ユウギが吹きながら横目で訊いてる。
「ゴメン、だって」
と言って、ユウギの紡ぐメロディーを慈しむように
目を閉じて聴く。
メロディーが心に到達すると
それはユウギそのままに素直で優しく
乃愛は嬉しくて、哀しくて、今が幸せすぎて
笑いになってこみ上げ
止まらなくなってしまう。
リコーダーが止むと
乃愛の笑いもおさまる。
「いい歌だなあ」
「じゃあ笑うなよ
♪とうさーんがくれた あの眼差し
かあさーんがくれた ポケットテイッシュ」
小学生の頃歌った替歌の歌詞で唄うと
ユウギはリコーダーをまた床に転がし
なんでもない顔で伸びをした。
色の褪せたTシャツの袖が捲れ
天井に伸ばした二の腕の内側も首も
ビックリするほど白く滑らかだった。
元々色白だけど
部屋に閉じこもってる日々だからますます白い。
そして運動していないせいか
男の子にしてはぽっちゃりした
子供のような肌だった。
14歳のユウギは
若い男性のように見える時もあるが
子供のように見えることもある。
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