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午後三時のおやつの時間、マサルは口いっぱいにワカサギの唐揚げを頬張った。
「骨までパリパリで美味しいね。あれ、ミノルは食べないの?」
「魚は不味いから嫌い。大体、人間が文明を築いてから何十万年も経つのに、魚を丸ごと頭から食べるなんて原始的で野蛮だよ」
「ええ、こんなに美味しいのに。ミノルも釣りを始めるといいよ。自分で釣った魚を自分で料理したら絶対美味しいよ」
「料理も面倒だなあ。僕は魚よりも甘いおやつが好き」
「ええ、ミノルの料理、食べてみたいのになあ。ミノルは舌が肥えているからきっと美味しいのに、残念だなあ」
草原で暮らすマサルとミノルは兄弟だが正反対の性格をしている。マサルは釣りなどのアウトドアな趣味を好み、晴れた日は近くの池で釣りを楽しんでいる。一方ミノルは典型的なインドア派の少年で、面倒くさいことが嫌いである。晴れの日も雨の日も、小さな家の中で古い本を寝っ転がりながら読んでいた。そのため、マサルと比べてぽっちゃりとした体つきだ。
「おじさんとおばさんが持ってきてくれたんだ。マサルもたくさん食べなさいってさ」
二人の両親は二人が小さな頃に亡くなっている。身寄りの無い二人を育ててくれたのは、近所に住むおじさんとおばさんである。彼らは大層マサルとミノルを可愛がった。大柄なおじさんとおばさんはいつも、食べきれないほどの食べ物を二人の家まで持ってくるのである。ミノルはおばさんの作る砂糖をふんだんに使った甘いお菓子が大好きだった。
「やっぱり、おばさんのクッキーは美味しいなあ」
ある日の午後三時、恒例のおやつの時間には部屋いっぱいに唐揚げの香ばしい匂いが充満している。
「骨までパリパリで美味しいね。あれ、マサルは食べないの?」
「ああ、マサルは骨が硬いからね」
おばさんの問いかけにおじさんが答えた。
「マサルは小魚ばっかり勝手に食べてしまうからね。放牧した人間は肉質がいいとは言うが、食生活を管理できないのは考え物だよ」
西暦で言うならば三七九一二九年にあたる年、人間は宇宙から襲来した巨大生物に支配されるようになった。
巨大生物は人間を食糧として大変好んだ。劣悪な環境で飼育された人間もいたが、より自然に近い環境と適度な娯楽を与えて育った人間の肉の方が美味であった。
富を持つ巨大生物は巨大な農園を営んだ。何万ヘクタールにも及ぶ草原に、人間用の小さな小屋を点在させ、そこで人間を育てた。
人間の男女が農園の中で恋に落ちることもあった。マサルとミノルの両親も農園内で出会い恋をして、マサルとミノルを出産した。
その後、両親はマサルとミノルが「おじさん」と「おばさん」と呼んでいる巨大生物に食べられてしまったのだが、二人はそれを知るよしもない。
そして、今日ミノルはマサルが釣りに行っている間に、おじさんに唐揚げにされてしまった。このことをまだマサルは知らない。
「骨が硬い人間は食べにくいし、マサルは逃がしてやってもいいような気がするよ」
「そうね。マサルの唐揚げは美味しくなさそう」
おじさんとおばさんは今後の農園の経営方針について話をしながら、唐揚げをつまんだ。すっかり空っぽになった大皿を前に、おばさんは指が十八本ある手を合わせた。
「ごちそうさまでした。ミノルの唐揚げは美味しかったわね」
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