・プロローグ

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・プロローグ

 いつもの喫茶店で彼女を待ちながら、僕はメの事を考えていた。 ――いや。考えていた、というのは正確ではないかもしれない。いつもの事だ。何かしている時、何もしていない時、僕の頭の片隅にはいつもメがいた。そしてそれは、この先もずっと変わらないのだろう。  メはロボットの名前だ。彼が家にやってきたのは今から15年ほど前、僕がまだ幼稚園生の頃になる。  うちは母子家庭で、母は仕事で大抵家にはいなかった。近所に住んでいる祖父母が良く面倒を見に来てくれたので別段困る事も寂しい事もなかったのだが、それでもやはり、ひとりになる事は多い。  そんな僕を思ってなのだろう。その日母は突然思いついたようにそれを買ってきて、僕にプレゼントしてくれたのだった。 「けっこう人気なんだって。給料出たばっかりだし、奮発して買っちゃった」  それは当時発売されたばかりのペットロボットだった。ペットといっても犬や猫といったカタチではなくて、白くて四角い、豆腐のような見た目をしている。  てのひらサイズでややチープな印象だが、こちらの対応に応じて成長していくAI技術を取り入れた、比較的安価ながらとても良く出来たおもちゃだった。  その日の夜、夕食を食べ終えて風呂に入ってから、僕はさっそくそのロボットの電源を入れた。  確か次の日は休みで、母は「明日になってから遊びなさいね」というような事をいっていた気がするが、そんなものは無理に決まっている。  ロボットが小さく発光する。カメラのレンズのようなものが、きいきい音を立ててこちらを見てくる。僕は思わず息を飲んだ。 「……すっごい目」 『――メ。それが、わたしの名前ですね?』 「えっ、違うよ。目だよ、目」 『きみの名前はなんですか?』 「コウヘイ。キリシマコウヘイ」 『はじめまして、コウヘイ。起動してくれてありがとう。わたしはメ。これからずっとそばにいて、わたしの事を育ててくださいね』  レンズがまた、きいきい鳴る。それが僕とメとの最初の会話だった。
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