育て方

1/1
前へ
/4ページ
次へ

育て方

ぼくは怨霊を育てている。 もちろん相手は愛玩動物(ペット)ではないので、ぼく自身をエサに誘き寄せて取り憑かせた。 ある男への復讐のため、敵討ちのためだ。 小動物を捕食する弱い低級霊を、なんとか人を襲って食らうレベルに育てるのは苦労した。 三日に一回は、ぼくの代わりになって怨霊の空腹を満たすエサを求め歩いた。 とくに今の姿の素地(ベース)になっている、放し飼いの猛犬を食わせてからが大変だった。 動きの速さも凶暴さも大幅に増したので、空腹の兆候を見逃すと命取りだ。 体も大きくなり、食べる量も増している。 だから先ほどのような社会のルールを守れないクズを探した。 ぼくに腹を立て、襲いかかってくるよう挑発するためだ。 育てている怨霊は、霊能力を持つぼくを食らうために取り憑いている。 だからぼくが襲われると、目当てのごちそう(メインディッシュ)を横取りされる、と勘違いしてしまう。 結果、相手を喰らい、腹が膨れて食欲をなくす。 ぼくが相手にのされて自滅するのを待てないのは、頭が悪いからだ。 食事が終わり、ひと回り身体が大きくなった怨霊は、頭上2メートルくらいを浮遊し始めた。 「ゆっくり消化するといい」 タバコの匂いが漂う。 食べたエサの体臭が移ったのだろうか。 接近が分かりやすくなっていいが。 ――頃合いだ。 彼女を死に至らしめたあの男に、復讐する時がきた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加