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いんべえは言った、お前、空の国に行きたいんだって? じゃあ、俺の言うとおりのものを描いて、それを地面に埋めろよ。それが、地面と空の懸け橋になるから、と。
そうして、ぼくは彼の言葉に合わせて、なんだか梅干しの種みたいにみえる絵を描いた。いんべえは事細かに指図した、大きさはこう、ここに5つ点々が並んでいて―。
そうして描き終えて転がり出てきた種を、裏庭に埋めることになったんだ。
***
植えた翌日から、それはぐんぐん成長していった。根が張り、家の土台の下に潜り込んだそれは、家を少しずつ傾けさせていった。
「これで登っていけば、ママに会えるかな?」
そう訊くと、彼は首を振ってから、それは無理だねと言った。
「こんな長いの、生身で登っていくのはたいへんだぜ」
確かにそうかな。伸びた先端は、雲の上に突き出して見えなくなっている。
***
そうして何日かが経った後、いんべえが嬉しそうに言った。
「このてっぺんに、俺たちの船が着陸した。もうすぐ、大勢の仲間がこの茎を伝って降りてくるだろう。そうしたら、この星をいただくことができる」
「この星を、いただく?」
「そうさ。無作為に増えた“知的生命体”を片付けて、俺たちがトップに立つ! ああ、心配は要らないぞ。お前は俺たちのために活躍してくれたから(何しろ、この姿かたちじゃあ、あの大きくて重たい具現化マシン、つまり、鉛筆を持って絵を描くなんて、到底できなかったからな)、特別に俺たちの船に乗せて、移住させてやる―」
そうして得意げに語るいんべえの言葉の意味は、ぼくの頭の中に流れてくることはなかった。だって、上空からは絶え間なく、何かがたくさん降りてくる音がしている。
ざわざわ、ざわざわ。もうすぐ地上にやってくる。人類の最後を告げに―。
FiN
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