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あれ? うちのアパートの階段て、こんなに段数あったっけ?
建物の脇に備え付けられている外階段。それを上りながらふと思う。
ぱっと見はいつも通り。だけど今日は、いつもより長く階段を上っている気がする。
今日は仕事が立て込んで、心身共に疲れているから、きっとそのせいで長く感じるのだろう。
気持ちをそう切り替え、上に向かったが、一向に階段が終わらない。
さすがにおかしい。一階と二階しかない安アパートの階段が、こんなに長く続く訳がない。
数段上がって踊り場、そこからUターンしてまた数段上がる形式の階段。でも踊り場に辿り着かないし、そもそも、普通ならすぐそこに見える筈の踊り場が見えない。
だったらと後ろを振り返れば、もう一階の地面は見えず、そこには始まりがどこかも判らない階段の羅列。
安さ最優先で決めたポロアパートなので、部屋は狭いし天上も低い。つまり、二階から一階に飛び降りても大した高さはない。
しかもここは、まだ踊り場にも辿り着いていない位置。ここからなら、手すりを飛び越えて外へ降りても怪我などしない高さだ。
そう思うのに、覗いた怪談の外は真っ暗で、まるで断崖のような状態になっている。
進んでも辿り着けず、下りてもきっと同じこと。外へ逃げ出すこともできない。
途方に暮れて立ち尽くしていたら、ふいに階段か揺れた。
上から下りてきた人が俺の横を過ぎていく。その振動と共に辺りの風景が一変した。
すぐそこに踊り場が見え、下を窺えば地面が見える。手すりの外も普通の景色に戻ったいつもの階段。
上へ向かえば、当たり前のように、ごく数段で二階に着いた。
さっきまで、いったい俺はどこに迷い込んでいたのか。
近所づきあいなんてほとんどないから、すれ違ったのが何号室の人かも知らないけれど、あのタイミングで降りて来てくれたあの人に心から感謝している。
階段…完
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