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そして荒馬記念の日。
「いけ、いけえ、フクムラサキ、そこだ、そこだ、つっこめえ」
安永卓夫は、声の限りにフクムラサキを応援する。隣の京子もこれくらい一生懸命に私を愛してくれたらいいのにと、半分呆れ顔をして安永を見つめる。
彼女の父親から、競馬で500万円でも儲けたら結婚してもいいと言われていたので、応援にも力が入る。彼女の父親は、そんなことありっこないと思って口にしたのだろうが。
一番人気のベニコマチは、外扇門賞で2着と好走し、帰国してからも体の回復に留意しながらも入念な調教を積み、絶好調とみられていて断然の一番人気に推されている。
引き締まった腹回りと血管が浮きあがった皮膚には力強さがみなぎっている。
そして彼らが応援するフクムラサキも同じように外扇門賞に遠征したが、結果は12着と大敗。帰国してからも遠征疲れからかすっかり痩せてしまっていた。ここにきて大分回復してきたが、絶好調には遠く、筋肉に張りもなく繰り出す足のさばきにも物足りなさがあるという下馬評であった。そのため、本番の荒馬記念でも8番人気と評価を落していた。本来ならば、ベニコマチを負かすのはこの馬ではないかと言われていたのだが。
フクムラサキは2500メートルの荒馬記念は得意とする距離。ここで負ければ彼女の競馬人生は終止符を打つことだろう。
確かに半年の休み明けだけに、調子がどこまで戻っているかが不安視されていて人気が落ちていた。
だが、本番当日のパドックでは、一般の人にはわからなかったが、もっちゃりとした尻の肉は打てばパチンとはじき返すほどに見え、下馬評がうそではないかと思わせるほど回復していたようだ。
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