「いけ、いけえフクムラサキ」

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レースでは、ベニコマチは下馬評通りに堂々とした走りぶりで、終始5番手をキープして進む。そして4コーナーを回って直線に入ると、ためていたパワーを出し切るかのようにいきなり先頭に躍り出る。そして他の追随をものともせず、2500メートルのゴールを駆け抜けるかに見えた。 だが、残り100メートルでばったりと足色が鈍る。 そこに「あれはなんだ」と放送席の亀石の声。 なんと、ムラサキ色の馬が後方から、たったいまロケットが発射されたかのように突っ込んでくる。 「あ、なんだかやってきました。ムラサキ色のあの馬は」 「フクムラサキですね」 猪崎が答える。 あっという間に5頭を抜き、6頭を追い抜くと先頭でゴールを駆け抜ける。 勝利馬の表彰で、騎手のヌメールがインタビューに答える。 「はい、馬に勝たせていただきました。私は直線でムチをくれようとしたのですが、フクムラサキが『痛いからやめて』というのです。『私は大丈夫。Mじゃないのでムチなどなくても走ります』というのです。私は、それを信じてただ追いました。それがご覧の通りです」 「それにしても強かったですね。どうでしょうか、この馬の一番の走りでしたね」 解説者の質問に「ええ、そうですね。でも今日の走りを見ているとまだまだ走れそうです」と答える。 「では、どうでしょうかもう一度外扇門なんて話は」 「は、ドバイですか。そうですねそれはもちろんと言いたいところですが、まだ走り終えたばかりです。馬主さんのご意向もありますので、私からは何も」 「そうですね。どうもお疲れ様でした。今夜はおいしいお酒を」
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