「いけ、いけえフクムラサキ」

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それは「ドドドドドッド」と、最後の直線300メートルの先にあるゴールを目指す馬たちが繰り出す音であった。 そこを一番で通り抜ければ、競争馬として最高の栄誉が与えらる。しかも賞金は5億円。ご主人様が「よくやった」とサツマイモ二本で褒めてくれる。 「そこどけ、そこどけ、邪魔する奴は蹴散らすぞ」 そんな声が飛び交う。せわしなく、しかも騒々しく、そして厳かに。 「ここで、お前に負けるわけにはいかない」 「いや、俺こそお前のきたないケツをなめるわけにはいかない」 沽券にかかわるとばかり、対抗馬を脇に見て熾烈な直線の追い込みにかける。 「なにをいいやがる、俺のケツでも舐めてやがれ」 相手も負けてはいない。右ムチを力いっぱい打ちつける。それを待っていたかのようにスロットルをいっぱいに振り絞り、あえぐように駆ける。 「そこのけ、そこどけローンレンジャー。シルクスイートさんがいくわよ。のけて、どけるのよ。あたしの尻はかわいいわよ」 シルクスイートがお尻を振り振り疾走する。 いよいよゴールまで残り200メートルに迫る。 「いけいけ、あたしの邪魔する奴は蹴とばすぞ」 いつの間にか先頭に躍り出たベニコマチが絶叫する背中で、つんのめりながら愛馬に右ムチをくれる縦豊騎手。 まるで、ウィリアム・テル序曲の第4部アレグロ・ヴィヴァーチェのクライマックスに向かうように。
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