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「あのね、卓夫さん。母がいうの、『あんなギャンブル好きな人とは付き合ってはダメ。別れなさい』と」
京子は悲しそうな顔で安永に告げる。
「そうか、競馬はだめか。そりゃ確かにいいことじゃないかもしれないが、最近はテレビのコマーシャルでも女優を使って、イメージアップをはかっているんだがな」
「ええ、それは知っているわ。父はその辺は理解してくれてると思うの。『競馬もほどほどならば。小遣いの範囲程度で』とは言ってくれるんだけどね。でも、父の言葉は母の前では全くダメ。だって、母は父の麻雀で散々苦労してきたみたい。お母さんが私や弟の出産のときも仕事だと言いながら、麻雀でうちに帰ってこなかったのよ。母の家は厳格でギャンブルはダメだったみたい。賭け事するやつとは結婚させないとずっと言われて育ったみたいなの」
「そうか。それは失敗したな。君のお父さんも競馬が好きなんだと思ってしまって」
安永は頭をかきながら、苦笑いを浮かべて答える。
「ねえ、卓夫さん、あたしと競馬どっちを取るか決めて」
「なんだって、君か競馬か。ううん」
安永は難しい顔をして考え込む。
「ねえ、そんなに考え込むことなの」
「いや、そうじゃないけど。でも」
「でもって、なによ。もう知らない」
安永は、確かに競馬はギャンブルであるが、昔ほどそう毛嫌いされるものではないという思いを抱いていた。それを口に出そうとしたが、京子は椅子を蹴ってすでに安永に背を向け、ドアに向かって歩き出していた。安永は追いかけようとしたが、なんとなく「まあ、いいか」という思いになって、酒を注ぐ。
確かに競馬はギャンブルで、国が主催する賭博である。賭博は禁止されているが、法律的に競輪、オートレース、競艇が許されている。
そういえば、宝くじやサッカーくじも広い意味では「公営ギャンブル」になるのだが、「あたしの彼、宝くじなんかするの。ギャンブルする人なんてもう別れるわ」なんていう人はいないかと思うが。
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