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その白を染めて
「野々原って、何で俺のこと好きなわけ?」
あたし野々原夏歌(24)が今絶賛片想い中の彼、木村御幸(25)が今更何の確認なのか、飲みかけのビール片手にそんなことを堂々と聞いてくる。
「…何でって、?」
あたしはその真意の分からない問いに、枝豆をちびちびとつまみながら聞き返した。
今日は不定期で開催される同期飲みの2次会と称して、予め木村くんの予定をばっちり抑えていたあたしの押せ押せアピールタイムが開催されるはずだったのに、気づけばしっぽり酒を酌み交わしてしまっていた。
まさか木村くん自ら軌道修正してくれるとは夢にも思わなかった。ありがとう。
「今までずっと何でだろって思ってた。純粋に何でか分かんないんだよね。好きとか、俺の何を見て、何を知ってて言ってんの?」
純粋に何でか分からない。
そっか、そうよなぁ…。
以前、この気持ちを伝えた際に、誰のことも好きになったことがないと言ったこの人の言葉を思い出した。
「理由なんて、そんなの些細なことだよ。落ちたシャーペンを拾ってもらったとか。そんなしょうもない、取るに足らないことがきっかけで人は恋に落ちちゃうの。」
思い出すのは入社試験の際に誤って落としてしまったシャーペン。
それをたまたま席につくため歩いていた木村くん(当時は名前すらしない)が拾ってくれた。
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