その白を染めて

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とっくのとうに終電の時間は過ぎている。 帰れないことを心配するあたしに「大丈夫、最初から宿泊にしてあるから。」と木村くんがしれっと言う。 「そ、そうなんだ。(うわああ、お泊まりだっ)」 再度ガウンに身を包んだあたしをその手にふわっと抱きしめ「もう寝よ。明日も仕事じゃん。」そう言ってスッと目を閉じる。 薄暗い部屋の中、感じるのは木村くんの暖かな温もり。 こんな幸せすぎることって、あってもいいの? 「おやすみ、なさい…。」 控えめに言った言葉に「おやすみ。」と既に眠そうな声が返ってきた。 やがて聞こえてきた木村くんの規則正しい呼吸が、眠りについたことを教えてくれる。 しかし、興奮しきってしまったあたしの体と頭はそれから暫く経ってもなかなか寝付いてはくれなかった。 時刻は朝の5時ごろ。 浅い眠りから目覚めたあたしはそっと木村くんの腕の中から抜け出していそいそと身支度を整えた。 2万円あれば足りるだろうか。 昨日の飲み代も合わせればこんなものかなと、テーブルの上にそっと置いて、小声でフロントに先に出る旨を伝えたあたしはその場を1人であとにした。 ごめんね、木村くん。 朝起きて昨日との態度のギャップに打ちのめされたくなかったあたしを許して欲しい。 まだあたしはあの甘い余韻に浸っていたい。 そうすれば、暫くの間は幸せな気持ちでいられる。夢のような時間をどうもありがとう。 あたしはこの日の出来事を胸に生きていく。
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